請求債権目録の書き方・見本遅延損害金・執行費用など

請求債権目録

請求債権目録

(1) 元金  金100万円【1】

(2) 遅延損害金 金2万0821円【2】
 上記1に対する、平成30年1月1日から平成30年6月1日まで年5%の割合による金員【3】

(3) 執行費用 金9740円【4】
 内訳
 申立書作成および提出費用 金1000円
 本申立手数料 金4000円【5】
 差押命令正本送達費用 金2898円【6】
 商業登記事項証明書交付手数料 金1200円【7】
 同申請書提出・受領費用 金328円【8】
 送達証明書申請手数料 金150円【9】
 同申請書提出・受領費用 金164円【10】

合計 金103万0561円【18】

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説明 元金と遅延損害金

【1】

申立の時点で残っている、債務名義に基づいて相手に請求できるお金の元本を記載します。

和解調書や公正証書などの債務名義に記載されている金額が100万円で、その金額の支払いが全くなければ、まさに債務名義記載の金額=100万円で決まりになります。

債務名義の作成から債権差押命令申立までのあいだに一部の支払いがあった場合には問題が生じます。債務名義にかかれている条項の内容から、支払いがあったときまでの利息または遅延損害金を計算する必要があるためです。

  • あえて計算しない、ということもできます。この場合は遅延損害金の請求をしないものとして取り扱われます。

以下、場合分けして考えます。

判決・仮執行宣言付き支払督促などで、お金の支払いをしなければならない日とその日以降の遅延損害金が定められている場合

『被告は原告に対し、金100万円およびこれに対する平成30年1月1日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え』(判決)
『1 債務者(乙)は債権者(甲)に対し、平成29年12月31日限り金100万円を支払う。
 2 乙が前項の金員の支払いを怠った場合、前項の残額に対し、支払い済みまで年5%の割合の遅延損害金を支払う。』

このような、元本・遅延損害金の起算日または支払いの日・遅延損害金の料率をまず債務名義から読み取ります。『平成30年1月1日から支払い済みまで年5%の割合による金員』とされている判決があるとしたら、その訴訟では支払いの日が平成29年12月31日だと判断されていたはずです。

この場合は、遅延損害金の起算日は平成30年1月1日だと読み取ります。

公正証書で将来の支払時期を定める場合は、遅延損害金の起算日ではなく支払い日を示してあるのが通常です。『債務者は債権者に対し、平成29年12月31日限り金100万円を支払う』という記載は、支払い日が平成29年12月31日であることを示しています。その日までにお金を払えば約束通りにお金を払ったことになる=遅延損害金は発生しない、ということになりますので、こうした記載がある債務名義を用いる場合は支払い日の翌日、この例では平成30年1月1日が遅延損害金の起算日です。

和解調書や公正証書などで、分割払いと期限の利益の喪失が定められている場合

たとえば100万円を平成29年11月以降、毎月末日に10万円ずつ10回払いにする約束がある場合です。

このようなときは、『分割金(各回10万円ずつの支払いのこと)の支払いを怠り、その額が20万円以上に達したときは期限の利益を当然に失い(以下略)』といった、期限の利益という言葉が出てくる条項を探します。その条項から、分割払いのお金をどれだけ払わなければ期限の利益を失うのかを調べ、その日の翌日から遅延損害金を計算します。

この例では未払いの額が20万円に達した時点で期限の利益を失うことになっていますので、初回である平成29年11月末日支払いの10万円が支払われなかっただけでは期限の利益は失われません。その支払いがないまま、2回目である平成29年12月末日に支払われるべき10万円の支払いがないことが決まったとき=12月末日が終わって1月1日になったときに未払いの金額が20万円に達して期限の利益が失われ、1月1日が遅延損害金の起算日になります。

この例で、12月10日に5万円だけ支払われたらどうでしょうか?

これは11月末日に支払うべき10万円のうちの5万円ですので、12月1日から12月10日まで、10万円に対する遅延損害金を計算し(136円。詳細は後述)その金額を差し引いた4万9864円が元本に支払われた、という考え方をとります。この時点で、11月末日支払い分の10万円のうち、5万136円が未払いです。

また、この例では未払い額が20万円にならないと期限の利益が失われませんので、平成29年12月末日が経過した時点で元本の未払い額は15万136円です。次回の平成30年1月31日の時点で全く支払いがなければ未払い額の合計が25万136円になり、ここで期限の利益が失われます。

もし1月末日までに、さらに数万円の支払いがあった場合、

  1. 5万136円については11月末日の支払い分の残りですから、遅延損害金を12月11日(前回の支払いがあった次の日)から支払い日まで計算して差し引きます。
  2. 12月末日支払い分10万円の遅延損害金も発生しているのでそれも差し引きます。
  3. その遅延損害金を超える金額の支払いがあった場合には、元本の支払いに充てることができます。支払時期の古い方=ここでは11月末日分の元本が支払われたことにします。

平成30年1月5日付で3万円、同月20日付で4万円が支払われた場合の計算をします。

平成30年1月5日の時点で、遅延損害金は

29年11月末日分の10万円のうち、未払い5万136円について
平成29年12月11日から平成30年1月5日まで 177円
29年12月末日分の10万円のうち、未払い10万円について
平成30年1月1日から1月5日まで 68円
 合計 245円
3万円−245円=2万9755円

これが、元本の支払いに充てられる金額ですので、平成29年11月末日分の支払いに充てるものとして
 5万0136円−2万9755円=2万0381円
 この20381円が、平成29年11月末日に支払われるべき10万円の未払いの残額です。

平成30年1月20日の時点で、遅延損害金は

29年11月末日分の10万円のうち、未払い20381円について
平成30年1月6日から1月20日まで 41円
29年12月末日分の10万円のうち、未払い10万円について 
平成30年1月6日から1月20日まで 205円
 合計 246円
4万円−246円=3万9754円

これが元本の支払いに充てられる金額になります。まず29年11月末日分の残額20381円の支払いに充てることができ、11月分の未払いは消滅します。残り19373円を平成29年12月末日分の支払いに充てることができますので、

10万円−19373円=80627円

これが、平成29年12月末日に支払われるべき10万円の未払いの残額になります。

そうすると、もし平成30年1月末日ぶんの10万円の支払いがなくても、未払い額の合計は20万円に達しません。まだ期限の利益を失わない、ということになります。これ以降、また一部の支払いがあれば、未払い額に対する本来の支払いの日の翌日から支払い日までの遅延損害金を計算して、その金額を支払った残りを支払い日の古い元本の返済に充てる、という操作を続けて未払いの元本を計算し直す操作を続けていくのです。

債務者が適当な金額を適当な日付で払ってきた場合、こうした計算を支払いの都度繰り返してまず元本の残額を確定する必要があります。

もしそうした作業が面倒なら遅延損害金の請求を放棄して、すべて元本に支払われたものと扱うのは債権者たるあなたの自由だ、ということになっています。この計算ができないから債権差押命令申立そのものを諦める必要はないので、お好みで選んでください。

【2】

上記の検討によって確定した最後の支払いの日の翌日、または債務名義から読み取れる支払い日の翌日のいずれか遅い方を遅延損害金の起算日として、その起算日から申立の日(申立書表紙の日付の日)まで計算し、その金額を記載します。

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説明 執行費用

執行費用も、あれこれ書くのが面倒なら記載しない=請求しないという選択は常に可能です。その場合でも【4】【5】の2件合計5千円はなにも考えずに決められる金額ですので、書いておくことをおすすめします。

各費目と費用は法律(民事訴訟の費用等に関する法律)で定められていますので、みなさんがおこなう各手続きについて実際に取得した書類や準備に該当するものだけを計上していくことになります。そのため、市販の書籍や当事務所の見本と皆さんの申立書類の記載が一致することは絶対ないことに注意してください。

【4】

執行費用として計上した金額の合計を記載します。

【5】申立手数料

基本は4000円です。債権者・債務者・債務名義の数のいずれかが一つ増加するごとに4000円増加します。

下記の場合には、申立手数料は8000円となります。

  • 公正証書1通で債権者1名、債務者として、主たる債務者と連帯保証人2名となる場合(債務者が1名増加)
  • 判決と訴訟費用額確定処分を債務名義とし、債権者・債務者各1名(債務名義が1通増加)

債権執行の申立にあたっては、この金額の収入印紙が必要です。

【6】差押命令正本送達費用

ここで2898円は、名古屋地裁本庁で債権者・債務者・第三債務者各1名の申立時に執行費用に計上してよい金額です。

裁判所ごとに送達費用は異なります。
 予納郵券額と執行費用も、異なることがあります。
 裁判所の本庁と支部で、金額が異なることがあります。
 同じ裁判所でも、数年ごとに予納郵券額やその組み合わせが変わることがあります。

このため、債権執行の申立をする裁判所の現在の予納郵券額・執行費用がウェブサイト等で確実に確認できない場合には、裁判所に電話をかけて事前に確認しなければなりません。当事務所を含めて裁判所以外のウェブサイトの情報は古かったり間違っていることもありますので、もし発見できても参考程度に留めるべきです。ここで手を抜いてはいけません。

【7】商業登記事項証明書交付手数料

債権者・債務者・第三債務者が法人の場合に各1通ずつ、かならず取得・提出を要します。この費用を、1通あたり600円で計上できます。インターネット経由で取得した場合、この費用を500円・480円としても当然かまいません。

個人の債権者が、法人の債務者1名に対して、一つの支店の銀行預金(第三債務者も法人で1名と数える)に差押えをおこなう場合は2通分、最大1200円が計上できます。
 同じ銀行の複数の支店の口座に同時に差し押さえをおこなう場合は第三債務者は1名になります。

【8】同申請書提出・受領費用

前項の登記事項証明書を、法務局に郵送で申請して受け取った場合の費用として82円×往復2枚分=164円を、証明書1通あたりの費用として計上できることになっています。
実際に郵送で申請していなくてもこの金額を計上できる一方、費用が超過してもこの金額を超えて計上できません。債権執行に関する書籍にはこの費目が載せられていないものも多々あります。

このほか、申立によっては次の費用を執行費用に計上できます。

【9】送達証明書申請手数料

裁判所または公証役場で、債務名義の送達証明書を取得するさいに使った費用を計上できます。

裁判所で送達証明書の発行をうける場合、費用は1通150円です。
公証役場で発行を受ける場合は領収書に記載の実費(1通250円)を計上します。複数の債務者に対する送達証明書は各債務者ごと別に発行されますので、債務者2名なら2通分計上できます。

ただし、送達証明書は一回発行をうければよいので、同じ債務者に対する差し押さえの申立が多数回にわたる場合には、一回だけ計上できます。
そうしないと、費用をダブって請求することになってしまいます。

【10】同申請書提出・受領費用

送達証明書を取得する際の郵便費用、という考え方で1通あたり164円の定額を計上します。前項の費用を計上した場合のみ計上できる費目です。

複数の送達証明書を申請する場合、ふつうは同時に申請して受け取りますので郵便のやりとりは1通分で済むのでしょうが、それでも1通あたり164円の費用を計上できます。

【11】執行文付与申立手数料

仮執行宣言のついていない判決あるいは公正証書など、執行文を付与してもらう必要がある債務名義を用いる申立で、費用の実費を計上できます。裁判所で執行文の付与をうける場合は1通300円、公証役場での場合は1700円です。

複数回の債権差押命令申立をする場合は一回だけ計上できるのは送達証明書と同じですが、同じ債務名義で複数の債務者(主たる債務者と連帯保証人など)に差し押さえをかける場合には、執行文は1通付与してもらえればよく、費用も1通分のみを計上できます。

【12】同申立書提出・受領費用

執行文付与の申立も、提出や受け取りの費用を計上できます。
こちらは往信82円+返信512円で費用は一回594円となっていますが、執行文は債務名義にくっついてくる大切なものなので、書留郵便を用いるものとして費用を計上できるという考え方によっているようです。

とにかく定額で594円、前項の手数料を計上した場合にのみ費用を計上できる、と考えてください。

この受領費用のところは、債務名義別に『執行文付判決正本受領費用』などと記載することもあります。これは判決の場合です。

【13】確定証明書申請手数料

【14】同申請書提出・受領費用

判決・訴訟費用額確定処分などの確定証明書を取得するさいに使った費用を計上できます。【9】【10】の送達証明書の説明を、確定証明書と読み替えてください。同じ説明になります。

【15】執行証書謄本作成手数料

公正証書を債務名義として差し押さえ申立を行う場合に、債務者への送達がされていなければ、まずその公正証書を債務者に送達しなければなりません。そのため、公証役場で(以前作った)公正証書の正本に基づいて、それとおなじもの=謄本をもう一回作ってもらって、それを債務者に送る、という手続きをとります。

そのための公正証書の謄本を作ってもらう費用です。公証役場でもらえる領収書に記載された実費を計上でき、公正証書のページ数で決まります。

【16】執行証書謄本受領費用

前項の執行証書謄本の作成を申請し、受け取る費用です。1回594円を計上できます。

【17】執行証書謄本送達費用

公証役場から債務者へ公正証書(正確には公正証書の謄本)を郵送で送達する際の費用です。公証役場でもらえる領収書に記載の実費を計上します。通常は1400円ですが、ページ数が多くて重たい場合には若干増加するかもしれません。

公正証書を作ったときに、公正証書が手渡しで債務者に渡され、その記録に基づいて送達証明書を出してもらえるならば、【15〜17】は発生しない費用です。

【18】

元金・遅延損害金・確定利息・執行費用の合計額を記載します。この金額は、差押債権目録に記載する金額の合計と一致します。

ところで、この執行費用は制度上は上記のようにたくさんの費目が用意されていて、当事務所では各費目とも実際の申し立てで使って申請を通しています。

しかし、市販の書式集にはここまで載っていないのが不思議なんですが…書いた人の仕事がいい加減なのではないか、と筆者は疑っています。少なくとも当事務所では、請求できるものは数百円でも積み上げていく、という方針をとります。そのかわり、裁判所でも不慣れな担当者からは、この費用はなんだと質問を受けることがあります。民事訴訟の費用等に関する法律別表をお手元に用意して、採用した費目を説明できるようにしておいてください。

残念ながら、このコンテンツの記載では裁判所への説明になりません。

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Last Updated :2018-08-03  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.