推奨されない類型

退職間際の、有給休暇まとめどり

実際にやったことはありますが、おすすめはしません。万人向けではありません。

実際に失敗した人も見ました。さすがにこれは請求を放棄するよう助言しました。

これは使い方をまちがえると、かなり非常識な人間だという印象を周りの人にも担当職制にも与えるでしょう。つまり法律オタクとして汚名を残すか伝説の英雄になるかどっちか、になる可能性があります。これは普段の職場内のあなたが、どれだけ良好な人間関係を作り上げているか、どれだけのよい仕事をしているか、に大きく左右されます。

ではなぜここで挙げるかというと、あまりにも低レベルな労務管理の事業場が多すぎるからです。いまだに『期間社員には有給休暇はない』というようなお馬鹿さんな脱法人材派遣業者とケンカ別れするような場合や、あるいは一応解雇無効を主張するがさっさとやめて就職活動に入りたいような思惑がある場合には使ってよいかもしれません。

有給取得に対する使用者側の合法的反撃としては、時季変更権の行使があります。

しかし、労働者が退職の意思表示と有給取得の時季指定を同時に行う場合は、使用者が有給休暇の時季変更権を行使することは事実上不可能です。有給休暇が2年分、21日残っているなら、退職日の21日前から有給休暇に入る意志表示をしてしまえば絶対動かせないわけですね。

この場合、問題になるのはこの意思表示をいつ行うか、です。実質的には退職することになりますので、引き継ぎもせずにいきなり今日内容証明をだして明日から有給だ、というやりかたは好ましくありません。最悪の場合、権利の濫用にあたります。懲戒事由にあたることを主張する使用者もでてくるでしょう。

しかたがないので、有給取得日を実質的退職日と考えて、有給取得開始2週間前ぐらいに内容証明が到着するようにします。

内容証明到着後の2週間は、まあ笑って耐え抜いてくださいね。

例 1年分10日間の有給をとる場合。通知は1月8日につくと仮定。
『私こと、来る平成25年1月31日をもって一身上の都合により退職いたします。なお平成25年1月22日より1月31日まで、有給休暇を取得します。』

退職の日と有給取得開始の日、終了日を書くのは必須です。

有給休暇の発生は、労働者側の『有給取得の意思表示』が使用者に伝わった時点で(使用者が速やかに時季変更権を行使しなければ)確定しますから、労働紛争の世界では数少ない『正確な内容証明を作って出せば、それだけで勝てる気楽な訴訟』になりますね。もちろんそうであっても、勝訴したあとに相手から自発的な支払があるかどうかという問題は残ります。なまじ遺恨を残すようなやめ方をしたばかりに、その後の訴訟で在職労働者が経営者に味方することもある、と覚えておいてください。

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賃金について、遅延損害金を請求する場合

ここで『賃金』とは、労働契約で定められた賃金および労働基準法所定の『割増賃金・有給休暇中の賃金』を指します。

労働基準法から支払義務がでてくるお金としては、ほかに解雇予告手当や休業手当がありますが、これらは賃金とは考えませんので注意してください。

さて、未払いの発生から実際の支払までが長期にわたる場合、および労働者が退職した場合には、この遅延利息で請求できる部分を無視できなくなってきます。その後裁判にもつれ込んでも遅延利息を請求することで、訴訟費用は増えません。あくまでも利息は、請求する元本(未払い給料本体)にくっついて(付帯して)請求するものだから、です。

支払いが遅れたことに対し、慰謝料を払ってほしいというような要求は送信フォームからも読みとることはできます。遅延利息という言葉は使っていなくても、支払が遅れたことに対してなにかほしい、というご希望があることが伺えます。しかしながら、訴訟にしても和解で遅延損害金の支払いが認められることはあまりなく、内容証明を送った程度であいてから遅延損害金まで払ってもらえることはほとんどありません。

これが、筆者が内容証明等の文書で遅延損害金の支払いを求めることを推奨しない理由です。

どうしても請求してみたい方、無理だと割り切って文案に記載だけしておきたい方のために、説明を続けます。

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会社に雇われており、在職中の場合

この場合は、商事法定利息の『年6%』を、支払義務の発生から完済にいたるまで請求できます。10万円で半年なら3000円ですね。

これは、雇い主が『会社=株式会社・有限会社・合資会社・合名会社・合同会社』である場合です。気をつけてください。この法定利息で請求する際には、労働契約から毎月の賃金支払日を把握して、

毎月の賃金が30日、あるいは末日に支払われる場合の例
『平成24年11月分の給料 金18万円 および、これに対する平成24年11月30日の翌日より完済にいたるまで年6%の金員の支払いを求めます』

というユニットを作ることが必要です。元本の額と、その支払い義務が発生する日(給料の支払日。ここでは11月30日とした)、適用利率の表示が必須です。11月30日の翌日を、12月1日と言っても別に構いません。支払義務が発生する日のうちに支払を終えれば遅延損害金を支払う義務はないので、遅延損害金が請求できるのは支払日の翌日から、ということになります。

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非営利法人および個人に雇われており、在職中の場合

その雇い主の事業が、商法上の『商行為』にあたるか否かで違います。
商行為にあたるなら、商事法定利息の6%、あたらないなら民事法定利息の5%になります。

商行為には、たとえば物の販売や賃貸、製造や加工、運送、作業の請負などがあります。
喫茶店や工場や建設業を営む個人に雇われているなら商事法定利息の6%を請求できます。この場合の例は、前項と同じです。

なにが商行為に当たるかについて、詳しくは商法第501条および第502条を見てほしいのですが、専門家へ相談したほうがよいかもしれません。あるいは、安全側に振って5%にしておくことです。これなら常に、不正解にはなりません。

たとえば登記申請の代理を業とする司法書士については、この行為は商行為にはあたらない(利益を得るための、作業や労務の請負とはいえない)ので、これに雇われている場合商事法定利息の請求ができないことになります。理不尽ですね。

営利を追求しない建前になっている法人(医療・社会福祉・宗教・NPOなど)に雇われている場合も、民事法定利息の請求にとどめておいた方がいいと考えます。

民事法定利息5%で請求する際には、労働契約から毎月の賃金支払日を把握して、

毎月の賃金が30日、あるいは末日に支払われる場合の例
平成24年11月分の給料 金18万円 および、これに対する平成24年11月30日の翌日より完済にいたるまで年5%の金員の支払いを求めます

というユニットを作ります。元本の額と、その支払い義務が発生する日(給料の支払日。ここでは11月30日とした)、適用利率の表示が必須です。11月30日の翌日を、12月1日と言っても別に構いません。

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労働者がすでに退職したあとで請求する場合

この場合は、業種にかかわらず年14.6%になります。誰に雇われていようが無関係です。
その根拠は、民事法定利息が民法第404条、商事法定利息が商法第514条、であるのに対して、賃金の支払いの確保等に関する法律第6条第1項にあります。

同条の原文は検索サイトであたってください。要件は、

  • 退職した労働者の賃金を払ってない場合
  • 起算の日は、退職日の翌日。または、退職後の最終の賃金支払日の翌日のどちらか遅い方。(よって、ほとんどの場合、退職後の最後の賃金支払日の翌日)
  • 利率は、政令により、年14.6%

具体的に、毎月の給料が20日締め末日払いの場合を考えます。

平成25年1月1日に退職すると、12月21日〜1月20日の給料は1月31日支給です。
よって、1月31日の翌日以降は年14.6%の遅延損害金が請求ができることになります。

平成25年1月分の給料 金18万円 および、これに対する平成25年1月31日の翌日より完済にいたるまで年14.6%の金員の支払いを求めます

これが必須のユニットになります。交渉で譲歩してみせる部分としてであれば、退職後の遅延損害金の請求はつけておくことをすすめます。遅延損害金は訴訟をやってもつねに絶対にとれる、というわけではなく、元本を自発的にはらうなら利息は免除する、という提案をするぐらいの柔軟さが必要です。

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賃金でないお金について、遅延損害金を請求する場合

具体的には解雇予告手当を考えています。これは賃金ではないので、商事法定利息も賃金の支払いの確保等に関する法律も使えません。

ですから常に、遅延損害金の利率は民事法定利息5%となります。なお、性的嫌がらせなどでの慰謝料(不法行為による損害賠償)を請求する場合も、賃金でないことから民事法定利息5%になります。

問題は、いつから利息が付けられるか、です。解雇予告手当の場合は、解雇言い渡しの日の翌日、慰謝料であれば、不法行為があった日の翌日です。

なお、解雇予告手当については遅延損害金の発生を考える必要がないという内容の通達が出ています。これは、解雇予告手当を使用者が払わないならば解雇が無効になってしまうため、遅延損害金というより解雇予告手当そのものの支払を求める余地がない、という考え方からくるものです。

しかしながら、使用者が解雇予告手当を払わない場合でも労働者が解雇を有効と認めたうえで解雇予告手当の支払を求めることは裁判実務では認められた考え方なので、このコンテンツでも解雇予告手当について遅延損害金を請求できるという立場に沿っています。

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Last Updated : 2013-07-09  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.