名宛人の住所氏名(商号・事業場名・代表者名・役職名)
法人が名宛人の場合
ここでは労働紛争で内容証明を使うことを考えていますので、まず雇い主が会社である場合を示します。
この場合は、会社の本店と商号を正確に、代表者がだれかわかっていれば、特定してください。『本店』というのは本店と支店という意味ではなく、会社法の世界の言葉でその会社の本拠地として登記されている住所のことです。
登記された本店の住所が実際の事業の本拠地の住所と違うことはよくあるので、送り先をどうするかは後で説明します。
法人に宛てる場合の一般的な例 |
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名古屋市緑区鳴海町字長田32番地 |
レジデンス野並 703号 |
有限会社すずき事務所 |
取締役 鈴木慎太郎 殿 |
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矢印をつけた部分が『社長』でも『代表取締役』でないことに気づきましたか?
じつは会社において、代表権をもつ人の肩書きは常に代表取締役だとはかぎりません。
これを調べるには法務局で全部事項証明書なり登記事項要約書をとる必要がありますが、全部事項証明書で1通600円、要約書で1通500円かかります。
支払督促を申し立てたり訴訟を起こすときには、添付書類として登記事項証明書が必ず必要なので、前もって取ってそれを確認することができれば文句なしですね。
前もって登記事項証明書を取得しない場合は、大間違いを防ぐ意味で次のことを覚えておきましょう。
法人の代表者 | |
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株式会社 | 代表取締役または代表執行役 |
有限会社 | 代表取締役のことも取締役のこともある |
合資会社および合資会社 | 無限責任社員。 無限責任社員のなかから代表社員を選んでいることもある。 この場合は、代表社員。 |
NPO(特定非営利活動法人) | 代表理事 |
医療法人 | 代表理事 |
封筒にも名宛人を書きますが、書面に書いたものと一字一句完全に一致している必要があるのは差出人と同様です。これもかならず訂正を求められる箇所ですので、気をつけましょう。
法人が名宛人の場合の、代表者の書き方
法人の場合、労働者からみて経営者に思えるひとと登記上の(つまり、法律上の)代表者が違うことがあります。できるだけ正確に把握し、法律上の代表者に文書を送る必要があります。そのためにはどうしたらいいでしょう?
1.法務局で登記事項全部証明書を取って、それに記載されている肩書と氏名を書く。
→完璧ですが、手間とお金がかかります。訴訟突入必至と見ている場合のみおすすめします。
2.名刺または契約書をもらっているなら、その通りに書く。
→堅実そうにみえますが、代表者が交代している可能性は頭においておいてください。大きな会社で気づかない、零細企業でしらない間に息子が継いでいた、というのはよくあることです。
3.代表 ○○殿 としておく。
→精度は思い切り落としたかわりに、大はずれはしません。代表というのを『その法人の代表権者』と解釈できるからです。ですので社会福祉法人や医療法人など、会社でない法人にも、安直につかえます。
会社の場合に、社長と書くことはおすすめしません。代表取締役「会長」という代表権者がいて、その下に社長という職名の人がいる場合もありうるからです。
零細企業でも、じいさんが代表取締役会長、おやじが取締役社長、普段従業員いじめに精を出しているのはおやじの方だが、請求としてはじいさんに上げないと法的には正しくない、ということはあります。
この例では、じいさんを社長とよぶのは不正解ですが代表と呼ぶのは間違いではありません。
4.肩書はつけない。
→これはおすすめできません。むしろ、名前を丸ごと削って『有限会社○○御中』とした方が無難です。代表者に交代があった場合を考えてください。会社+個人名だけだと、会社に対して送ったのか個人に対して送ったかわかりにくくなります。
5.肩書も氏名もかかない。
→見てくれは最悪ですが、はずれではない選択肢です。労働契約にもとづいて賃金等の支払を求める対象はあくまでその法人なので、別にこれでもかまいません。ただし、誰か適当な担当者が内容証明を受け取ってどこかにやってしまった、といういいわけが代表者個人から出てくることはあります。
法人が名宛人の場合の、住所の書き方
実際にある事業場と、登記してある本店所在地がまったく異なることは、よくあります。
本店、というコトバがでてきましたが、これは会社法や会社の登記の世界の用語です。複数あるうちの一番主なお店のことではなくて、その法人の運営上の意志決定がなされるところ、と思ってください。だから工場がある場所の小さな事務室が『本店』ということもあります。
登記上の本店所在地は社長の自宅だが、お店は駅前に借りている、あなたが給料未払いにあった勤務先はそのお店だ、という場合をかんがえてみましょう。
社長の自宅=登記上の本店所在地など従業員は聞いたこともない、ということもままあって、問題はいっそう複雑になってきます。
こうした場合、厳密には文書は本店所在地に送るべきですが、その事業場で発生した問題の解決をもとめるかぎりで、その事業場に送りつけてもかまいません。
ですが、登記上の本店のほかに、実際のお店としてa店とb店があり、自分はb店で勤務していて紛争に巻き込まれた、という場合には、a店に送ることは無意味です。紛争に関係があるわけでもなければ、会社の運営上の意志決定がなされるところ(本店)でもないからです。この場合は、本店かb店に送るのが正解です。
事前に登記事項を調査した場合にのみ可能なのですが、これをやってあるお客さまにはおすすめしているやり方があります。
それは、登記上の本店と代表者の自宅が違う場合に、代表者の自宅の方に内容証明を送りつける方法です。
駅前に事務所&登記上の本店、代表取締役社長の自宅は山の手の高級住宅街、こんな状態を考えてください。
通常は駅前の本店に送るのがスジです。しかし、登記をみれば代表者の住所はわかります。
主に零細企業で、駅前の事務所に人がいない場合に自宅には人がいて受け取ってくれる、こうした効果を期待します。世の中には不在通知で内容証明が送られてきた場合にわざと受け取らない経営者もいますから、事情を知らない家族が受け取ってくれる可能性に賭けてみるわけです。
また、むかしからあるやりかたですが、(労使関係のよくない会社の)労働組合が組合員を動員して「新年あけましておめでとうございます。今年も要求貫徹のためがんばってまいります」などという年賀状をどっさり送りつけてプレッシャーをかけることがあります。従業員に自分の住所を告げていない社長に対しては、それなりに調査や準備をしている、と認識されるかもしれません。
もちろん相手によっては気を悪くすることがあります。安易に用いてはいけません。
この場合は、その法人名と代表の職名(代表取締役や無限責任社員など)を正確に書いておくことが必須です。そうでないと、もともと個人宅に送りつけるものになるため、法人宛の意思表示か個人宛の意思表示かわからなくなってしまいます。過激なことをするときほど、間違いは許されません。
個人が名宛人になる場合(雇い主の場合)
個人事業主に雇われている、ということもあります。この場合は、事業場かその個人の住所におくればよいことになります。どちらでも構いません。
その事業主が屋号をもっていることもありますね。この場合はそれを書いておけばなおよいです。
ここでは訴状や支払督促の書き方に合わせてみます。具体的には、『屋号 こと 氏名』という書き方をします。
個人事業主で、屋号のある例 |
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社会保険労務士 司法書士 すずき しんたろう事務所 こと |
鈴木 慎太郎殿 |
このようになります。上記は、事務所の名前を屋号とみています。
すずき代書店 こと 鈴木慎太郎殿 などは一般的でしょう。すずき代書店が屋号です。
これで美容院でも喫茶店でも工務店でも雑貨店でも使えます。
法人に雇われているが、職制上の個人を名宛人とする場合
実際に使ったことがあります。
以前筆者が働いていた、ある脱法人材派遣業者(工場内業務請負業者)のある支店の課長が、筆者をクビにしようとたくらんで失敗した折りに、この課長を名指しして内容証明を放ったという事案です。
その内容証明でなにをやったか、というと、『有給休暇23日分の、退職前一括取得請求』です。
職制上のある人物(課長なり部長なり支店長なり)がその問題を処理する能力をもっていたり、その紛争そのものの当事者である場合には、法人の代表者でなくその者に内容証明をぶつけることも考えられます。この場合は、住所はその職制が勤務している事業場、肩書と氏名はその人のをそのまま書けばOKです。本店にはむしろ送ってはなりません。
職制上の個人に送る例 |
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有限会社奥豊前総合開発 本州支店 管理部 課長 ○○殿 |
このようになります。
目次これは労働紛争での内容証明(催告書)を自分で作るためのコンテンツです
- 内容証明郵便とは −ただのお手紙です−
- 材料(用意してほしいもの)
- つかえる文字・記号・数字
- 書きかたの注意(ワープロ出力の場合)
- 書きかたの注意(原稿用紙を用いる場合)
- 必ず書かなければならないこと(必須のユニット)
- 名宛人の住所氏名(商号・事業場名・代表者名・役職名)
- 本文
- 未払い給料の支払をもとめる場合
- 労働契約では支給の定めがない割増賃金の請求を、労働基準法に基づいて行う場合
- 解雇に関する請求(解雇予告手当・解雇撤回)
- このほか、非推奨の請求類型
- 必要に応じて書いておくべきこと(独立ユニット)
- 提出
- おわりに
- 関連情報 こちら給料未払い相談室