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勝つためだったらウソ言わせてよ社長がそうだからって労働相談で言われても…

相談を打ち切って今すぐ帰ってほしい、そして二度とこないでほしい、そんな発言です。

訴訟を始めたあとで、「実は訴状に書いてもらったことは事実と違います」などと言ってくるパターンは一層厄介です。こうしたことが一回あると、以後その労働者の言うことを信じることができません。正直なところ、こう言われてしまった時点で依頼人との信頼関係の崩壊が始まっており、どんな案件でも早めに和解で終わらせよう(これ以上不利にならないうちに終わらせよう!)と心の中では考えだします。

無邪気な方は、法律相談の段階で「訴訟でウソを言っても勝てればいいんですよね?」などと平気で言われます。そういう態度でしたらご依頼を受けるわけにはいきません、と説明します。

ところで、労働者が民事上の紛争で勝つために裁判所で、あるいは自分の代理人にウソをつくことのなにがいけないんでしょう?

倫理的な問題は、いまさら言うまでもありません。皆さんからみても、もっと納得しやすい理由があります。

事実と違う物語をつくってしまうことがOKだとすると、必要に応じて作った物語相互間に、あるいはその物語の周辺に存在している証拠や証人と、矛盾が発生してしまう危険性が高まるのです。自分の主張が書類で蓄積されていき、随時に参照できる手続き=民事訴訟では、特にこれがいけません。

ありがたいことに、倫理や理想はさておいて手続きを進めるのが難しくなるからウソはやめたほうがいいよ、と申し上げると大部分の方は納得されます。

「わたしは事実しか言いませんから」などと平然という人も危険です。

人はときどき、周りの状況に応じて迎合的に記憶や説明を変えてしまうことがあります。自分は事実しか言わないと考えている人は、こうした記憶や説明が不正確になる可能性に対して無防備なのがいけません。
自分の正しさだけ呑気に信じているので発言や説明の訂正を求めると反発されるため、敵に回して論破するのは簡単ですが依頼人にすると厄介です。

別に、事実と違うことを絶対言うな、と言っているわけではありません。

むしろ人は、事実と違うことも事実に沿うことも言うし、その間には揺れがあって一定しないのが通常だ、と筆者は考えています。

そうした実情がある以上、事実と違うことがらが訴訟で対立当事者から示されることがあっても、それはわざとやっている=ウソなのか、単なるミスなのかはこちらが簡単に決められることではないのだとも考えます。このため、相手が言うことをいちいちウソだと決めつける相談者にも共感できません。

人が語る事実にはそうした危うさがあることを受け入れて、時に厳しく他の証拠等と照らし合わせて説明の正確性を検討し、おかしいと思うところがあれば丹念に説明を求め続け、どうやら事実に沿うらしい、というお話しのなかから主張として採用するものを慎重に選んでいける、そうした経験を持っているのが、素人さんと違う専門家の存在意義ではないでしょうか。

ですが、業界団体の会長などをなさった大先生が敵側代理人としてお作りになった書類でも、ときどき「原告の主張には虚偽がある」などと脳天気に言ってこられることがあって首をかしげさせられます。

他士業の方にはまた違うお考えもあるのかもしれませんから、自分の言うことを片っ端から信じて採用してほしいとか、相手の言ってることは全部ウソだと決めつけてほしいような場合はそうした方に代理を頼むのもよいのかもしれません。

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Last Updated : 2018-08-10  Copyright © 2014 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.