●●だけ教えてくださいそれでダメだと泣き寝入り?
電話であれメールであれ、何か一つか二つの問題や前提を示してそれに対する回答だけ無料でくれ、という人がいます。これも労働相談に限りません。
「出勤記録がないんで、少額訴訟(で未払い賃金請求)をやっても負けますよね?」
といった、一言で済むような質問です。
ほぼ間違いなく、答えても意味がありません。
無料での電話相談をしないとウェブサイトに表示している事務所の側からこうした問い合わせをする労働者を見た場合、その人が無料での回答を希望してきた時点で問題があると考えられてもやむをえません。
相談の効果があるのか、わざわざ答える意味があるものかという点からも、以下の問題があります。
一つは、その人がその問い合わせで聞きたい一つか二つの関心以外に労働紛争を解決する可能性が常にあることです。
たとえば上記の設例の場合、賃金請求訴訟としてみれば立証責任の点から敗訴を免れないのかもしれません。
しかし賃金不払いを理由とする自発的な離職として雇用保険の特定受給資格者にあたる、という助言をすることはしばしばあります。これによって速やかに雇用保険失業給付が得られますので、質問者の質問に対しては「訴訟やったら負けます」という回答になるとしても、「雇用保険が貰えますから、生活が苦しくなることはありません」という回答が出せるかもしれないのです。当初得たかった回答とはきっと違う回答ですが、労働相談の回答としてはあり得ます。相談者の生活の質を向上させます。
何か一つだけ教えてくれよ、という質問はこうした慎重な検討を経て回答を受ける可能性を自ら捨てるものです。
もう一つは、その一つか二つの関心に対して正確に回答するだけでも、質問者が提示した事実以外に事実関係を補足して聞く必要があることが通常だからです。
上記の設例に対する労働相談なら、出勤記録がなくても他にこれに変わるものはないかを詳しく聞いていく応答によって、賃金請求訴訟で勝訴できそうな書証や協力者を探していく営みがこれにあたるでしょうか。この作業を経て相談者が考えていなかった方法や証拠を見つけ出せることも多々あります。
はっきり言えば、電話で今すぐ無料で答えろ、と言ってくるのはこの程度のことがわかってないダメな奴だけだ、とプロの側は知っているのです。そんな浅薄な奴に取り合って回答すること自体が無駄なんだよ、と。
こうした無駄な質問と見当はずれで自己満足の回答が延々と繰り返されてるのが、質問回答型の掲示板サイトだと考えればよいでしょう。むしろ質問者もああしたお手軽な(そして、自分に都合がいい)回答を期待して電話をしてくるのでしょうが、まともな事務所ほど相手にしません。
筆者の事務所ではこうした質問をほとんど受け付けませんが、ごくまれに質問自体が特殊だったり興味深いものであった場合には対応することがあります。といっても年に2〜3件です。
ご自分が誰かの助力を要する状況にあることを、こちらが電話をとって最初の数十秒で簡潔にプレゼンできる方はほとんどの場合有能です。そうした方とは話をしていて楽しいか、こちらが勉強になるのです。こうした問い合わせへの回答でも、まじめに取り組んでしまえば20分や30分はかかりますので、やはり簡単に何か聞かれて答える、などということは不可能なのだと思います。