贈与による所有権移転登記を自分でするために負担付贈与によるもの
目次 『名義を変える』ということは…?
- 土地や家の名義変更の話の前に(登記原因はなんですか?)
- 知っている人から世間相場なみの値段で売ってもらう(売買)
- 他の負担や出費と引き替えの不動産譲渡(売買・負担付贈与・代物弁済)
- タダで譲ってあげる・譲ってもらう(贈与)
- 離婚後の夫婦による、土地建物の名義変更(財産分与)
- 土地建物の持ち主による相続対策(売買・贈与など)
- 知っている(あるいは、知らない)誰かが亡くなった(相続)
- 登記の準備(生きている人から不動産を譲り受ける場合)
知人との不動産売買の相談・名義変更の費用名古屋市緑区の司法書士です
不動産を貰う人が何かをする必要がある贈与負担付贈与
「何かをする」というのは漠然とした言い方ですが、「(代金支払い以外での)何か」と考えておいてください。代金支払い義務を負わせたら、それは売買になってしまいます。
この場合、不動産の名義を変える契約としては贈与契約、登記原因は「贈与」で所有権移転登記をすることになります。
必要書類をはじめとする注意事項は贈与の項での説明があてはまりますので、そちらを参照してください。
負担付贈与で注意することは通常の贈与と同様、贈与税の課税です。国税庁のウェブサイトによれば、負担付贈与では「贈与財産の価額から負担額を控除した価額に課税される」とされています。財産をもらい受ける人がする「何か」をお金で評価したうえで、贈与される不動産と「何か」の価値の差に課税されるわけです。
この「何か」がお金に換算しにくい要素だった場合、法務局の無料登記相談どころか法律相談でも税務相談でも対応できない案件になってきます。よく挙げられる例として「子が親の面倒を今後ずっとみる」という義務を負わせるのと引き替えに、親の名義である家を子に贈与する、という説明をみかけます。子が親を扶養する義務はたしかに想定できますが、それを金銭に換算して評価するのはまず無理です。実費や投じた時間を無理矢理に積算するとしても、贈与後の親の生存期間によっても負担の額は大きく変わるでしょう。
見方を変えれば、価値不明な何かをする(義務を負う)ことが条件になる負担付き贈与も法律上は可能だ、ということにはなります。借金の肩代わりなどお金に換算可能なものはシンプルです(この場合でも、税務相談は必須です)が、そうでないものは税務上の問題が起きることをある程度想定して手続きを強行することになるかもしれません。
このほか、贈与される不動産の価額の評価も通常の贈与と負担付贈与では異なることに注意を要します。負担付贈与の場合、不動産の価格は「贈与の時における通常の取引価額」つまり市場での時価になります。通常の贈与では相続税評価額で評価されることになるため、負担付贈与で贈与するほうが1〜2割程度高めの評価を受ける、ということになるでしょう。負担の額が少なく、負担義務の履行がなくても契約解除に踏み切ったりしないなら、いっそ負担を無視して通常の贈与として扱うほうがいいかもしれません。
負担付贈与とは
『受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与』が負担付贈与だと、上記リンクの国税庁のウェブサイトでは説明されています。このページの説明では単に「何か」と言っています。どんな行為、またはそれをする義務を負うか、いくつかあげてみましょう。
贈与を受ける人の「負担」の例
- 誰かの面倒を見る。親その他の家族や、ペットなど。面倒を見るための労力の投下や、実費の支出を含む。
- 誰かの借金の肩代わり
- 譲り受けた物を、誰かに使わせてあげる(使用借権・賃借権の設定)
- 譲り受ける物の持ち主とは違う人への、自分の財産の譲渡(譲り受ける物の持ち主に物を譲る場合、『交換』という別の契約になります)
上記のように、お金を出す、体を動かしてなにかの作業をする、すでに発生している義務を肩代わりする、別の契約を誰かとしてその義務を果たす、といった何かが負担付き贈与の「負担」とされています。
よくわからない、と言われればまさにその通りですが、それだけ融通無碍なのです。さまざまなウェブサイトや書籍に例示されることがらだけではない、と考えてもらえればよいでしょう。
解除できる=元に戻せる贈与、という特徴
こうした義務を、贈与を受ける人が果たさない場合には負担付き贈与の契約を解除できるのが法律面でみた負担付贈与の大きな特徴です。不動産の負担付き贈与でいえば、譲った不動産の名義を元に戻すことが契約上可能です。
このため、負担付贈与では契約書を作成して負担(贈与を受ける人が果たす義務)をあきらかにしておき、それを果たさない場合は契約を解除できることも読み取れるような契約書にしておく必要が強いといえます。何が負担だったかよくわからない場合、負担義務を果たさないことを理由に契約を解除することは難しくなるからです。
負担付贈与では、贈与を受ける人の義務を明らかにしておくことが重要だと説明しました。その義務の対象は、別に不動産の当初の持ち主でなくてもかまいません。つぎのような負担付き贈与もありえます。
想定:父が所有する500万円の家を子に贈与する。
ここで子の負担の例を挙げてみましょう。
- 子は、母がしている借金200万円を代払いする。
- 子は、贈与された家で母が育てていたペットの面倒をみる。
- 子は、別の人にその家を5年間貸して使わせる。
こうした負担付贈与はそれぞれ可能ですが、子の義務は父のためのものではないことがわかります。上記の1番目の例だと、
「子はタダで500万円の家を貰うことができ、その代わりに200万円負担する=差額300万円得する」贈与と、
「母はタダで200万円の借金を肩代わりしてもらい、200万円得する」贈与の二つがあることになります。これらの贈与には、それぞれ贈与税が課税され、例では子も母も贈与税の納税義務を負う、ということになります。
ほんとうに「契約解除」できるのか
負担付贈与の法律面の特徴として、負担義務が果たされなければ契約が解除できる、と説明しました。
実際にはこれは難しいかもしれません。典型的なのは老齢の親から子が不動産を生前贈与され、親を扶養する義務を負う場合です。贈与から時間がたつほど親も子も年をとるわけですから、たとえば親が認知症になった状況下で子が負担義務を不履行にしても、契約を解除する人が(寝たきりなので)解除の意思を示せない、ということになります。
義務を果たす期間が長期にわたる負担付き贈与では、実質的には契約解除できなくなる=当初の思惑通り機能しなくなる可能性を受け入れるか、そうでなければ負担付き贈与ではなく民事信託の仕組みを作って不動産を受託者に渡し、受託者の活動を監視する別の人(信託監督人)を置くなど別の選択肢を検討したいところです。
参考文献
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