誰でもできる傍聴のしおり裁判(民事訴訟)の傍聴・見学と記録閲覧
- 訴訟の傍聴は、ほんとうは誰でもできるものです。
- このコンテンツの目的および参考文献
- いつ、どこの裁判所に行ったらいいのでしょう?
- 裁判所に行ったら…『開廷表』を探しましょう!
- 法廷の入り口までやってきました
- 法廷内にいる人
- 法廷で行われていること
- 訴訟の記録も、誰でも閲覧できます
本人訴訟の支援をしています愛知県名古屋市の司法書士です
法廷で行われていること
民事訴訟の法廷で何が行われているのかを傍聴人が把握するのは、実は難しいです。なぜなら、その期日における原告や被告の主張はすべて書面で提出されてしまい、その内容を知るには後で書類の閲覧(後述)をするしかないためです。これは証拠調べ(証人尋問や当事者尋問)についても同様で、どこで主張が食い違っているのか=手厚い立証を要するのか、が傍聴人にはわからないため、ヘタな尋問を聞いていると一体なにがしたいのか全く不明ということになりかねません。
ただし、出来のよい尋問者の尋問は、その内容から事件の全体像を描き出せる形になっていることが多いです。傍聴人のため、というよりは、そのように事件の全体を描きながら必要に応じて細部の尋問をしていくことで、証言者が当時の状況を思い出しやすいようにしているのだと考えています。
証拠調べではない口頭弁論期日(開廷表に、第一回弁論または弁論と書かれている期日)は一期日が数分で終わるため、文字通り何がなんだかわからない、という印象を持たれるかもしれません。ここでは裁判官の発言を軸に、彼らが何をしているのか解説してみます。
口頭弁論期日での裁判官の発言
「陳述しますか?」
その期日において、ある書類を提出し、その書類に書かれていることを述べたことにする、という意味の専門用語です。
第一回期日において原告に裁判官が「訴状陳述」とか「訴状のとおり陳述しますか?」と聞き、被告に「被告は答弁書を陳述」と語りかけるでもなく確認している「陳述」というのがこれにあたります。本人訴訟ですと親切な裁判官は、
「あなたが今日の期日で言いたいことは、今回提出された訴状に書いてあるとおりですか?」
と原告本人に確認して「では原告は訴状陳述」と書記官に伝えて記録を取らせる、という人もいます。
「甲第1号証から5号証まで提出」
訴訟では自分の主張を記した訴状や答弁書のほか、証拠を提出できます。原告側の証拠には甲第●号証、被告側の証拠には乙第●号証という番号をふっていきます。これの提出を受けたことを確認しています。
「原本確認しますか?」
上記のとおり提出する証拠は、あくまでも証拠のコピーをとったものですが、このもとになった原本を直接確認したいか敵対側の当事者や代理人に聞いています。大抵の人は確認しません。
「次回の期日は3月5日、11時からでいかがですか?」
双方の主張の内容に意味不明な点がなく、直ちに和解して終了させることもできなければ、裁判所はさらに続行する期日を設定して反論を繰り返させます。この期日を決めるために、原告側被告側に予定を聞いていきます。つまり、ここで決まった日時にまた傍聴に来れば、この訴訟の続きが傍聴できるということになります。訴訟の記録を閲覧しても次回の期日は書いてあります。
これらの発言は、書類がある程度よくできている訴訟で通常見られるもので、まさにこのやりとりだけで所要時間数分程度しかかからない期日はよくあるものです。しかし本人訴訟で意味不明の、あるいは不十分な主張がなされると、裁判官からいろいろな質問や追加の指示がでます。また、裁判官によっては早期に争点を把握してそこへ向かって主張や立証活動を強化するよう指示を出してくる人もいますので、後述する訴訟記録の閲覧とあわせると、当事者の能力や裁判官の志向が見えてきます。
証拠調べの期日で何が行われているのか
証拠調べの期日では原告または被告が申請した証人や、原告・被告本人が尋問されます。原告が申請した証人であれば、まず最初に原告側から証人への尋問を行います。これを主尋問といいます。その後、反対側の当事者または代理人からその証人への尋問がなされます。これが反対尋問です。反対尋問の後に、裁判官から証人への尋問(補充尋問)が行われますが、裁判官によっては主尋問や反対尋問に割り込むかたちで尋問を行うこともあります。
また、本人訴訟では代理人がいないため、原告本人を尋問するのは裁判官になり、これが事実上、主尋問と補充尋問を兼ねます。その後に被告側の本人または代理人から反対尋問が行われるかたちになります。
模式的な尋問の内容は、『法廷傍聴へ行こう』86〜88ページを、どんな尋問が上手あるいはヘタなのかについては、下記リンクで示している黒木亮著『貸し込み』(角川書店・角川文庫)下巻各所の尋問での描写をそれぞれご覧下さい。特に後者は、ある民事訴訟の証拠調べに際して双方当事者がどのように準備し、尋問になだれ込むかが大変リアルに描写されていますので、民事訴訟における尋問の全体像をつかみたい方には上下巻の通読をお勧めします。
参考文献