誰でもできる傍聴のしおり裁判(民事訴訟)の傍聴・見学と記録閲覧
- 訴訟の傍聴は、ほんとうは誰でもできるものです。
- このコンテンツの目的および参考文献
- いつ、どこの裁判所に行ったらいいのでしょう?
- 裁判所に行ったら…『開廷表』を探しましょう!
- 法廷の入り口までやってきました
- 法廷内にいる人
- 法廷で行われていること
- 訴訟の記録も、誰でも閲覧できます
本人訴訟の支援をしています愛知県名古屋市の司法書士です
裁判所に行ったら…『開廷表』を探しましょう!
訴訟の傍聴をするにあたって、必ず覚えておきたいのが『開廷表』ということばです。『法廷傍聴へ行こう』27ページ以下では事件表ということばをつかっていますが、今は開廷表としている裁判所が多いと思います。また、今は開廷表は縦書きでなく横書きになっていますが、裁判所によっては縦書きの様式で記入するように作られた掲示板をみることができます。
開廷表は、その日裁判所のどの法廷でどんな訴訟が開かれているかの一覧表と思ってもらえればよいでしょう。名古屋地方裁判所ではなぜか『開廷予定表』というファイルになっていますが、中味は同じです。開廷表はたいていの場合、裁判所の玄関あるいは1階のロビーのどこかにファイルとして置いてあるか貼り出してあります。事件数の少ない地方裁判所支部では、書記官室の前や掲示板に一枚だけ貼ってあることも多いです。事件数が多い大きな裁判所の場合は、受付担当者がいるカウンターにファイルが置いてあります。地方裁判所・簡易裁判所・民事部・刑事部とファイルが分かれていることもありますので、落ち着いて探してみてください。民事訴訟の傍聴をするならば民事部のファイルを探さねばなりません。刑事部の開廷表は、窃盗や覚せい剤など明らかにそれとわかる犯罪の名前がいろいろ並んでいますのですぐ気づくでしょう。民事部の開廷表は、貸金とか損害賠償といった事件名が多いはずです。
それでもわからなかったら、誰か適当な人をつかまえて『地方裁判所の民事の開廷表はどこにありますか?』と聞いてください。相手が裁判所職員であれば、これで質問の意味が伝わります。受付の人がロビーにいない裁判所の場合は、玄関のすぐ近くに書記官室(訴状などの書類を提出する場合に受け付けてもらうところ)があるので、そこで聞いてみればよいでしょう。
もちろん、開廷表のファイルをめくってみることは誰でもできます。裁判所によって微妙に書式が違いますが、よく見ると次のようなことが読み取れます。『法廷傍聴へ行こう』資料12も併せて参照してください。
開廷表に書いてあること
まず日付と法廷の番号が書いてあります。法廷がたくさんある大きな裁判所では、法廷の番号の最初の1〜2桁は裁判所の何階に法廷があるかを示しているはずです。まずこれで、その期日が開かれている法廷がわかります。
次に開廷時間が書いてあります。たとえば10:00から複数の、場合によっては十数件の期日が設定されていることがありますが、これが普通です。これを一体どうやって処理しているかは、実際に傍聴してみればわかります。
『貸金』とか『求償金』『損害賠償』と書いてあるのは事件名です。事件名は提訴する当事者(その代理人)がつけるものですので、事件の内容はここから推測できます。労働関係の訴訟の事件名は後述します。
『弁論』『第一回弁論』『弁論(証拠調)』と書いてあるのも、傍聴希望者にとって有用な情報です。まず『第一回弁論』は文字通り訴訟の第一回口頭弁論なのですが、制度上被告側が欠席可能なため原告と被告が派手に争う訴訟であっても、被告側代理人が欠席して次回の期日を決めるだけで終わることもあります。単に『弁論』と書いてあるのは第二回以降の口頭弁論期日です。これは原告被告とも出頭していて、両者が出した準備書面や書証の確認、裁判所から出頭者への簡単な質問や指示、次回の期日を決める姿が見られます。しかし、たいていは数分で終了します。『判決言渡』とあるのは、裁判官が判決を言い渡す期日です。しかし判決の主文(被告は原告に対し、金100万円を支払え、など)だけをひたすら読み上げるだけのものですので、当事者も出頭しないことが多いです。傍聴して面白いものではありません。
いちばん見ごたえがあるのが『弁論(証拠調)』とある期日です。開廷表によっては、当事者尋問あるいは証人尋問という記載をとるものもあります。もちろん尋問に対する準備として傍聴をする人は、これを重点的に見なければいけません。
これは尋問を行う期日で、所要時間は1時間から時には2、3時間に及ぶものがあります。
『21(ワ)567』などと書いてあるのは、裁判所がこの事件に付与した事件番号です。事件番号は裁判所ごとに毎年1号から順に番号を振っていくようになっています。(ワ)というのは地方裁判所における通常訴訟を示す符号です。地方裁判所と簡易裁判所で傍聴ができる手続きの一般的な符号としては、
- (ワ)地方裁判所の通常訴訟
- (ハ)簡易裁判所の通常訴訟
- (少コ)簡易裁判所の少額訴訟
このくらいを覚えておけばよいでしょう。逆にこの符号でない事件は、第一審ではなく控訴された事件だったり、手形に関する訴訟だったりしますので、そうした類型の事件に特に関心がある場合を除き傍聴に適しません。
当事者名も表示されています。たまたま知っている企業が出てくることもあるかもしれませんし、個人で事務所を営んでいる場合には『司法書士すずきしんたろう事務所こと 鈴木慎太郎』というように表示されます。貸金請求の場合には個人対個人の貸し借りなのか、単に貸金業者が消費者にお金を貸しているだけなのかで傍聴の見ごたえが違う(前者の方が主張が激しく対立します)ので、ここを参照して貸金業者の事件なら傍聴しない、というように使います。また、●●建設などの屋号や社名から自分と同じような業界での訴訟だとわかることもありますので、目を通しておくのがよいでしょう。事件番号と当事者名は、後で説明する訴訟記録の閲覧のときにも使います。メモしておきましょう。
地方裁判所の開廷表には、訴訟代理人の名前が載っていることがあります。代理人、つまり弁護士をつけなければこの欄は空欄になりますので、その訴訟が本人訴訟によるものかどうかがわかります。ただし、地方裁判所で一方が本人訴訟のような場合には、代理人をつけない側からは充実した尋問が行われない例が多々あります。というより、本人訴訟で当事者が適切な尋問を実施できている例を筆者は見たことがありません。むしろ、意図的にヘタな例を依頼人に見せるという期待で注目することが多いです。
労働訴訟の事件名
給料未払いなど、特に労働紛争が訴訟になった場合には、どんな事件名になるのでしょうか。ここでは原告側に訴訟代理人がついた場合、つまり代理人が事件名をつけた場合のものを中心に挙げてみましょう。なお、下記の事件名の後に『〜等』とあるのは、主な請求のほかにいくつかの請求を含む訴訟です。給料100万円、解雇予告手当20万円、退職金80万円の請求を一つの訴状で起こす場合なら、たとえば『賃金等請求事件』のように事件名を決めます。
賃金
基本給など、給料が未払いになっている場合にその支払いを請求するもの。交通費・割増賃金・年俸制における賞与部分などの請求も含む。
解雇予告手当
文字通り解雇予告手当を請求するものであるが、解雇予告手当だけで多額の請求になることはないため、地方裁判所ではあまりみかけない。
残業代・割増賃金
残業代(時間外労働割増賃金)の支払いを請求するもの。
賞与
賞与の支払いを請求するもの。
退職金
退職金の支払いを請求するもの。退職手当とするものもある。
●●無効確認・地位確認
普通解雇のほか、配転命令・懲戒処分・懲戒解雇など使用者側が労働者におこなった処分が無効であることの確認を求めるもの。地位確認は、労働者の地位を有することの確認=解雇が無効であることの確認を求めるもの。
地裁・高裁にのみ見られ、労働組合が支援していることもあり、原告と被告が激しく争うことが多い訴訟。
雇用関係存在確認
雇用関係が存在していることの確認を求めるもの。派遣切りや事業譲渡に関係して、直接自分を雇ってはいなかったはずの何者かにこの請求を仕掛けることが多い。たとえば派遣業者ではなく、派遣労働者を使った派遣先に対して「雇用関係があることの確認」を求める、という訴訟。
(労)損害賠償
通常訴訟で事件名に(労)とつけてあることで、労働関係の損害賠償請求であることがわかる。事件名ではなく事件の番号として平成21年(労)第123号などとあるものは通常訴訟ではなく労働審判事件だが、これとは関係ない。損害賠償の中味は、セクハラ・労災・不当解雇などさまざま。これも労使が派手に争う事案だが、中には労働者がいいがかり的請求をしているものもある。
平成27年頃以降、名古屋地裁の開廷表では労働関係の損害賠償請求事件を単に『損害賠償請求事件』としています。
慰謝料
損害賠償請求のうち、特に精神的な損害に対する賠償=慰謝料の支払いを求めるもの。ただし、原告が個人で被告が企業であっても、必ずしも労働事件とは限らない。
未払給料
未払●●、と事件名をつける弁護士は少ない。本人訴訟でたまにみかける。
残業手当
残業手当ということばは労働基準法にはないことを反映して、本人訴訟の事件名でたまにみかける。
事件名から内容がわかりにくいものとして注意を要するのは、損害賠償・慰謝料の請求事件ということになります。確かに見ごたえのある尋問が繰り広げられることは多いのですが、原告が女性だった場合にはセクハラに関するものである可能性があります。こうした事案の傍聴は、筆者は慎重に避けるようにしています。いくら法廷は公開が原則とはいえ、他人に聞かれたくない話が混じることもありますから。