相談室からひとこと
これまで説明してきた『差し押さえ』の手続きを、かんたんに整理します。
- 債権仮差押命令申立
- 使用者の財産(債権仮差押なら、預金や売掛金などの債権)がなくならないようにしておくために、訴訟の前または途中でおこなうことができる申立で、労働者が誰かからお金を取れる申立ではない。請求額が多ければ、多額の供託金(担保)が要る。
- 債権差押命令申立
- 訴訟や労働審判などの結果に相手が従わないときに起こす申立。こちらは、債権者にお金が支払われるようにするのが直接の目的。
- 少額訴訟債権執行
- 少額訴訟を経た者だけが選択できる申立であり、管轄が簡易裁判所になるほか、債権差押命令申立とだいたいおなじ。
債権仮差押・債権差押とも、債務者が誰かに対して持っている権利(預金を払い戻してもらう権利・生命保険の解約返戻金を請求する権利・売掛金を払ってもらう権利など。つまり、『債権』)について、債務者が権利を持っているひと(第三債務者といい、銀行や生命保険会社や売り掛け先がこれにあたります)に対してはその権利に基づいてお金を払わないよう命じ、債務者に対してはその権利を行使したり人に譲ったりしないよう命じる、という構造になっています。
つまり、債務者が権利をもっているひと=第三債務者がまともな個人・法人であるかは非常に重要になってきます。ちゃんとした金融機関なら心配ないでしょうが、零細な売り掛け先ならばそちらが先に経営破綻してしまったり、あるいは債務者と共謀して手続きに協力しないということもあるかもしれません。
さらに、債務者がどんな権利を誰に持っているか(未払いの給料や残業代を請求中の会社がどこの銀行に預金しているか、等)は差し押さえに着手したい債権者が自分で調べなければならず、これがわからなければもう何もできないことになります。
特に金融機関への預金債権の仮差押え・差押えを申立てようとする場合に問題になるのが、相手の会社がその金融機関に預金も借金もある場合です。この場合、金融機関はまず貸しているお金と預金を相殺する(預金を没収して、それで借金を返したことにする操作)ことができるため、単純に考えると預金より借金が多ければ差押えは無意味だということになります。また、申立をきっかけに信用不安を引き起こしたり、出入金が止まることでかえって経営破綻を招いたりすることもあるでしょう。
ただこうした場合でも、差押の申立によって相殺や破綻の可能性があることを交渉材料にして相手から自発的な支払を得ることができることもありますから、敵対側経営者の個性も考慮しながら手続きの実施方法や差し押さえる財産を慎重に決めていく態度が必要です。
実際に手続きを行う弁護士や司法書士でも、『預金より借金が多いから差押は無意味だろう』などとあっさり言ってくれるひとがいますが、それではネットの掲示板と助言の質に違いはありません。
差押命令申立すら駆け引きの手段だ、と割り切ってしまえばやり方はいくつも考えられますので、依頼人の話しをよく聞きながらいろいろな方法と効果を一緒に考えてくれる事務所を探すことです。
動産または不動産への差押申立・債務名義としての公正証書について
債権差押命令の申立については、判決・和解など裁判手続きの結果に加えて公正証書によっても手続きを開始できるのですが、そもそも給料未払いなどの労働紛争でその支払いについて公正証書ができている、ということはあまりないので、このコンテンツでは説明しないことにしています。強制執行に際して不動産を差し押さえの対象とすることは当然可能ですが、申立にあたって多額の予納金を要するため説明しておりません。動産については換金可能なものがふんだんにある、という事態を想定しづらいため、これも説明をしておりません。
他の事案では、状況によってこれらの申立や書類の利用もおこないます。
だから、労働紛争での債権差押等では料金の設定に工夫をしています
上記のとおり、債権仮差押・債権差押・少額訴訟債権執行の各申立は、訴訟などの手続きをいずれ起こすことを前提として(仮差押)、またはすでに終わった訴訟の結果に基づいてその実現を図るもの(債権差押・少額訴訟債権執行)だということができます。つまりこれらの手続きは、どこかで訴訟・民事調停・労働審判・支払督促などの手続きと関係を持つことになっています。
ですので当事務所では、給料未払いを解決するために起こす訴訟等と連続するかたちで書類作成の依頼を受けた場合には、債権仮差押・債権差押・少額訴訟債権執行の各申立について書類作成の報酬を調整する契約にしています。
具体的には、当事務所で通常訴訟の書類作成の依頼を受けて書類作成を開始し、裁判上の和解が成立したあと相手からの支払がないので債権差押命令申立をする、という場合には、和解の成立時に料金を支払う必要はありません。
債権差押命令申立書の作成については料金が必要ですが、申立によって実際に依頼人がお金の支払いを得たあとでその一定額(上限15%)の料金を請求するようにしています。訴訟で判決や和解がとれたときと債権差押命令申立で債権が回収できたときで、二度にわたって成功報酬を請求するようなことはありません。
また、他の事務所に依頼してすでに和解等の結果を得ていたり、本人訴訟で判決を取った場合に債権差押等の申立書作成のみを担当することもできます。
この場合には請求額と実際に回収できた金額によって料金に上限を設けるほか、書類作成の枚数で決まる料金と比較して安い方を料金としています。債権者・債務者・第三債務者が各1名の場合、料金は通常、4万円です。