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『あっせん』の申し立ては無料ですが、成立の可能性が労働審判より低いです

『あっせん』の申し立て都道府県労働局または各県労働委員会

申し立てを受け付ける窓口
勤務先を管轄する、都道府県労働局または最寄りの総合労働相談コーナー
各県労働委員会でも同様の制度を実施していることがある。(参考:愛知県労働委員会

あっせん申立とは第三者が間に入って話し合いを促進する手続です

あっせんの申立は、使用者も労働者も無料で利用できます。
相手方が利用に同意すればあっせん員が選任され、和解、つまり労使双方の譲歩により話し合いによる解決を目指す、という手続きです。

労働局のほかに、各県の労働委員会(都道府県の機関。東京都では産業労働局)が同様の制度をもっています。
労働局へのあっせん申立では給料未払いなどの労働基準法法違反になる紛争を扱わないのに対し、県労働委員会のあっせんにはそうした制限がなく、個別労働紛争全般を扱える点に大きな違いがあります。

手続きを支援できる資格・団体
弁護士 業務としてはあり得るが、当事務所の相談では経由事例なし
裁判外紛争解決手続きとしては、弁護士会のあっせん仲裁センターの利用を経由したり推奨された事例がある。
社会保険労務士 あっせん代理人になったり、申立書を作成する。
合同労組
(一人で入れる労働組合)
県労働委員会へのあっせんの申請人となる。
解決後に労働者にお金(カンパ)を請求する組合もある。要注意。
当事務所 社会保険労務士として申立書を作成する。
場合により、補佐人として同行する。
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あっせん申立ができる・できない個別労働紛争

職場での使用者と労働者の紛争(個別労働紛争)には、それがお金の支払いを求めるものであっても、そのお金の不払いが労働基準法等に

  • 罰則があるもの(給料や残業代・解雇予告手当の不払いなど)
  • 罰則はないもの(不当解雇や嫌がらせ等による損害賠償請求)

があります。前者は労働基準監督署への申告で対応できますが、後者は労働基準法への違反があるわけではない、つまり処罰に結びつくようになっていないので、労働基準監督署による監督が及びません。

労働局の『あっせん』は、処罰はできない労働紛争を扱う制度です

こうした労働基準監督署への申告で対応できない労働紛争の解決のため設けられた行政上の労働紛争解決制度が、この都道府県労働局の紛争調整委員会(国の機関)による『あっせん』です。

労働局へのあっせん申立は『給料や残業代の不払いを必ず全額支払わせるかたちで解決する』ということを期待して使えるわけではありませんが、従来は民事訴訟で解決するしかなかったお金の支払い請求である、セクシャルハラスメントや不当解雇による損害賠償としての和解金や退職金の積み増しをもとめるような場合に活用できるのでここで言及します。

あっせん申し立てが有効なのは、主として『それ自体、労働基準法をはじめとする労働社会保険関係の法令に処罰規定がない労働紛争』についてです。具体的には『毎月きまった給料の未払いや、解雇予告手当の不払い』はそれぞれ労働基準法違反なので、最終的には書類送検→刑事罰を視野に入れながら労働基準監督署が対応する、という制度になります。残業代や最低賃金、有給休暇中の賃金の不払いも同様です。
強いてこの部分の請求を含めてあっせんを申し立てたい場合には、都道府県労働局のあっせんではなく県労働委員会へのあっせん申立を選ぶことができます。

労基法違反を構成する賃金不払い事案等が都道府県労働局へのあっせんに馴染まない一方で、不当解雇やセクシャルハラスメントによる『損害賠償の請求』というのは労働法に根拠がない(民法上の不法行為と考える)ので、労働基準法等に基づく取り締まりが仕事である労働基準監督署で扱えません。

この違いをしっかり把握していないと、手続の選択が適切にできません。以下では、主に都道府県労働局のあっせんについて説明していきます。

都道府県労働局へのあっせん申立になじむ個別労働紛争の例

次の通り、募集・採用段階の紛争を除くかなり広い分野の紛争がこのあっせんの対象になってきます。

  • 不当解雇・雇い止め
  • 配置転換・出向、昇進・昇格、労働条件にかかる差別的取り扱い、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
  • セクシャルハラスメント、いじめなどの就業環境に関する紛争
  • 労働契約の承継、競業避止などの労働契約に関する紛争
  • その他、退職に伴う研修費用等の返還、営業車など会社所有物の破損にかかる損害賠償をめぐる紛争

申し立てによってあっせんが開始される場合、争っている当事者のほかに第三者=紛争調整委員会からあっせん委員が指名され、このあっせん委員と争っている両当事者の3者で手続がすすめられます。

あっせん委員は労働問題に経験が深い学識経験者や労組の執行委員長(平成15年現在で構成員の40%強が弁護士 大学教授30%弱 社会保険労務士も約10%採用されている)で、当事者の間に入って双方の主張を確認したり話し合いの促進をはかったり、当事者双方が求めるときには(つまり、手続の最終段階では)具体的なあっせん案を示したりして紛争の解決をはかる役目をもっています。

これに対して県労働委員会のあっせんでは、労働側・経営側の二者に別のあっせん員が委嘱され、さらに公益委員としてもう一人が選任されることがあります。

ここまで挙げたことから、つぎのメリットとデメリットに注目すべきです。

○メリット
民事訴訟に比べて、終結までの期間が短く簡単である
申し立ての書式や手続の進め方が民事訴訟ほど複雑厳格でないようにできている
申し立て自体、無料で利用できる
あっせん委員は弁護士や労組の役員など労働問題の専門家であることが多いので、話し合いの過程で、間接的に専門家の知識を利用できることになる


●デメリットあるいは注意しておく点
手続が簡便なため、当事者が詳細な主張をすることができるとは限らない(譲歩や手続の終結を優先されてしまう可能性がある)
 ※これは、民事訴訟以外の紛争解決手続に共通する欠点です。
申し立ての相手方(事業主など)には任意の協力をもとめるだけなので、
合意に至らなかったりあっせん開始に同意されないような場合、手続を打ち切られて終結する
あっせん期日への欠席を含めて、相手方が協力しないことへのペナルティは全くない
あっせんの場で合意ができても相手が実際にお金を支払わないような場合は、一般的には裁判手続をおこなってから強制執行することになる
民事訴訟など裁判手続と同時に行えない。すでに裁判で結論がでたものを扱うこともできない。

これらの面には注意しておく必要があります。とくに『相手が同意しないと手続きが開始できない・不同意にするには理由は一切不要』というところに致命的欠点があり、労働者が申立を出したとたんにあっせん開始を拒否されてあっさり手続き終了、となる事案が多数あります。

実施機関によっても異なるものの、件数で半分〜3分の2程度の申立はあっせん開始にすら至っていないということは大変厳しい現実ですが、申立にあたってとにかく認識しておいたほうがいいでしょう。厚生労働省の発表によれば、平成29年度の紛争調整委員会によるあっせんは申請件数5021件、合意が成立した件数は1899件で約38%にとどまります。

はっきりいえばこの手続き、我の強い経営者には無力です。

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あっせん申立の数字がっかりなさるかもしれませんが…

『申し立てには応じよ』と使用者側で言われるわけ

あるとき、社会保険労務士会の研修で講師の弁護士から『使用者側では、労働者からあっせんの申し立てを受けた場合は応じたほうがよい』との発言がありました。

『使用者側が払う解決金が、労働審判より安いから♪』というのが理由です。

社労士会の研修、つまり出席者のほとんどが使用者側の人であるからこそできる発言ではありますが、この発言はあっせんの性質を正しく表しています。労働者側でみた場合、この手続きは投じる費用や努力も少ないかわりに得られるものも少ない、そうした傾向を持つと考えなければなりません。

ここでは各種統計の数字から、紛争調整委員会(労働局)へのあっせん申立の実情をみていきましょう。

合意に至るのは4割弱

平成29年の統計では申請件数約5千件に対して合意の成立をみた件数は1900件弱、割合としては38%にとどまっています。合意成立の割合はここ数年で少しずつ上がってきている印象があるのですが、これは使用者側で活動する弁護士が『安価に紛争を終わらせるために』応諾する方針をとるよう情報を広めだしたことと関係があるのかもしれません。

代理人は使わないのがふつう裁判手続では使うのがふつう

特定社会保険労務士を名乗る人がいます。『特定』〜というのは開業後に別に研修と試験を受けて、あっせん申立の代理ができる社会保険労務士を指します。
この人達が実際に代理人になることはあまりない、と考えてください。

2012年のデータですが、労働政策研究・研修機構の労働政策研究報告書No.174『労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析』では4箇所の労働局に申し立てられた853件のあっせんについて調査し、労働者側が社会保険労務士を代理人にした件数を計6件としています。弁護士も6件です。つまり1%に達しません。

これに対して使用者側では社労士46件・弁護士37件と報告されています。同報告書では、労働審判・通常訴訟では労使とも8割以上が弁護士代理人を選任しています。

2018年までにこうした数字が大きく変わった、たとえば社労士代理人の選任率が5%を超えたという話は業界内では聞かれません。
ここから導き出される推測として、『特定社労士を名乗ってウェブサイトであっせん申立についてあれこれ言っている社労士の相当数は、実は代理人になんかなったことがない』と考えたほうがよさそうです。

なお、筆者はこの特定社労士ではありません。

解雇事案の解決金は賃金の1.1ヶ月分?

解雇の紛争を金銭解決する場合は被解雇者の月収の数ヶ月分というかたちで解決金が設定されることが多いです。単に金額を比べることには意味がありません。同報告書から申立労働者の賃金月額に換算した解決金の中央値(平均値ではない)を見ると、あっせんでは1.1ヶ月分、労働審判は4.4ヶ月分、通常訴訟の和解では6.8ヶ月分とされています。

なお、解決までにかかる期間はあっせん2.1ヶ月、労働審判5.1ヶ月、和解14.1ヶ月となっていて解決までにかかる時間(一部は雇用保険で補われますが、解雇により労働者が失う所得に影響します)が短いぶん支払額も小さい、という面はあるかもしれませんが、同じ制度のなかで比べた場合『それぞれの制度内部では相関していない』(同報告書87ページ)との指摘があります。

このほかに解決金額に影響を与える要素として、労働審判・通常訴訟は正社員・男性・在職期間が長い人・役職を持つ人・収入の高い人の利用が多くなっていることが挙げられています。こうした要素を持たない人(非正規・女性・短い在職・低賃金)の利用が相対的に多いあっせん申立で解決金額が低めに出ているわけです。

言ってしまえば弁護士にお金を出しにくい利用者層が本人申立であっせんに流れている一方、労働審判や通常訴訟の解決金からは労働者は弁護士に報酬を払わなければならないため見かけほど労働審判が優れることにはならない、とも言えます。仮に弁護士に1.5〜2ヶ月分の報酬を払ってしまえば、労働者が労働審判で得られる解決金の手取額は2.4〜3ヶ月分弱にまで減ってくるからです。

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それでも、『あっせん』を使うなら…

各県の制度を調べてみてください『県労働委員会 あっせん』で検索!

上記では主に国の制度、つまり都道府県労働局へ申し立てるあっせんについて説明してきました。
このほか、裁判所の外で運営されている労使紛争の解決のための制度として各県労働委員会が扱うあっせんの申立があります。申立が無料であること、相手方には応じる義務がないことは国の制度と同じですが、賃金や残業代不払いなどを含めた労使紛争全般を扱えるところに特徴があります。

つまり、県労働委員会へのあっせん申し立てのほうが実は便利です。

筆者が県労働委員会のあっせんに補佐人として出席したことは10年以上前に1回しかありませんが、その県のあっせん申立は申し立てから期日までに県労働委員会側で十分な準備がされており、期日での当事者に対する説明やあっせん案の提示も丁寧になされている印象を受けました。その県では当時、労働側と使用者側に別のあっせん員がついたのです。

各県労働委員会への個人でのあっせん申し立てはそう件数が多くなく(多くの県で、年間数件程度)、知名度も高くはありません。それでも、あっせんを使ってみたい方にはこちらをおすすめしています。


ほかにも社会保険労務士会・弁護士会が裁判外で労働紛争の解決をあっせんする制度を持っていますが、費用を払って利用するメリットが見いだしにくいと筆者は考えます。すでに相手方にその職能の代理人がついていて(例:弁護士が会社側の代理人で)その業界団体のあっせん仲裁センターに申し立てをすれば相手が乗ってきそうだ、というような状況でなければ積極的に利用を考える必要はないでしょう。

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