相談室からひとこと
何度もいいますが、少額な労働紛争では有資格者に、未払い給料の支払い請求や解雇予告手当の請求などの内容証明郵便の作成のみを依頼することは、賢明とはいえません。理由として、
- 費用が『捨て金』になりやすい。
- 内容証明は送られた側が自由に無視できる(労働紛争では、受け取った側が内容証明を無視することになんのペナルティもない)そもそも受け取らなくても構わないため。
- 人に任せる必要が、そもそもない。
- この前段階で労働相談をしっかり行って権利関係の把握ができていれば、自分で内容証明を作成できるはず。逆にこの程度のことができない場合、内容証明を無視された後で行う『法的措置』が自力でできるはずもない。
- かえってこちらの戦力の過少評価につながり、抑止力が下がる。
- (行政書士が作成者であると表示する場合)作成代行者がその後の法的手続きに関与できないことが相手に知られてしまうため。
インターネットを利用して遠方の行政書士に依頼してしまったような場合は特に問題である。作成した行政書士をインターネットで逆に検索されて、それが専業の行政書士=その後の手続きに関与できないことが発覚することは当然考慮しておくこと。
労働紛争においてあなたの相手は少なくとも、経営という分野の、プロフェッショナルです。事業を巡る争いごととその解決方法を、合法であれ非合法であれ経験として一通り身につけているか、身につけている人物をお金で動員できる立場にあります。
過去2年分の残業代請求のように、請求額が高額になるほど相手が誰か専門家=具体的には弁護士を動員する可能性は高まります。
こうした人への内容証明で、行政書士あるいは司法書士といった『(弁護士ではない)たんなる、資格の名前』が効力を高めるとは考えられません。運がよければ子供だまし的な効果はあるのかもしれませんが、相手にこちらの戦力を冷静に調査されるほど不利になってきます。敵対者の手続きを担当している法律関係者、というのはまずインターネットから電話帳まであらゆる情報で検索(戦力分析)の対象になってくる、と考えなければいけません。
結論として、少なくとも労働紛争において、内容証明作成だけを有料で外注することには、それが行政書士に依頼するものである限りコストパフォーマンスは悪いといえます。捨て金として選択するならともかく、安価な費用で紛争の解決を目指すという目的には合いません。
法律関係者に内容証明作成だけを有料で依頼する、というなら弁護士を選んだ方がよい理由は、ここで述べた短所の裏返しの長所に着目してのことです。この場合は内容証明作成者が弁護士であることが明確に相手に伝わるため、
- 内容証明を受け取った時点では、こちらの正確な戦力把握が不可能になる。
- 私が原告として起こした少額訴訟(請求額20万円強)でも、被告にはしっかり弁護士がつきました。つまり請求額が少ない紛争でも、「相手に弁護士が絶対につかない」とは弁護士たちにも言い切れないのです。ですから内容証明を受け取った相手方が、ほかのだれに相談を持ちかけても、「あなたが本当に弁護士を動員している可能性」を否定できません。そしてこの効果は、あなたが次の行動=法的措置を起こすまでは続きます。
- 内容証明作成の過程で、ある程度正確な法律相談を受けることができる。
- 依頼人に言われるままに内容証明の代書だけおこなう弁護士は通常いません。多かれ少なかれ彼我の事情を聞いて、法的判断をして書面を作ってくれることが期待できます。つまりここでは、法律相談と内容証明の作成を一気に行うことができます。
こうした利点があるのならば、どうせお金を出して内容証明を作成させるなら弁護士にした方が、たとえ値段は高くても効果が期待できるぶんだけよいです。ある程度請求額が大きくなったら活用を検討してもいいでしょう。
皆さんからの小口の依頼を受けてくれる弁護士を捜すことが、まず難しいかもしれません。しかし東京・大阪等の大都市では、少しずつそうした料金体系をもつ法律事務所のウェブサイトが出てきています。残業代を無料で計算するというウェブサイトまで出てきました。
当事務所では通常、内容証明は相談の結果整理した法律関係をふまえて依頼人自身の名前で出していただくようにしています。行政書士ではないので内容証明の作成代行で料金を取ることもありません。
だから、内容証明郵便の作成代行を商売にしません
インターネットで『未払い残業代や解雇予告手当の請求に関する、内容証明作成代行』をうたう(主として行政書士事務所の)ウェブサイトはいろいろあります。料金は1万円〜2万円程度が多いようですが、平成22年ごろから下限3千円台〜5千円台の事務所のウェブサイトもでてきました。
書類作成の際に料金を請求せず、実際に回収できたときに10%程度の成功報酬を請求する、というところもあります。
しかし筆者は、労働紛争では上記のようなデメリットがあり確実な効果も期待できない内容証明郵便作成で労働者から料金を取るべきではないと考えています。
そうしてしまった場合、なるべく少ない費用で労働紛争を解決することを助けるという当事務所の目的にそぐわないからです。
また、内容証明を出すこと自体は、事前の法律相談を綿密に行って「依頼人が、どんな権利があるのか、いくらのお金の支払いを求めることができるのか」をよく把握しておけば依頼人自身で十分に作成できるとも考えています。
ですから、当事務所では労働紛争を巡る事案で、内容証明郵便の作成のみを代行することは行いません。
簡易裁判所での訴訟代理人または裁判外で交渉をおこなうための代理人に就任した場合には作成することもありますが、内容証明郵便を利用するか否かをふくめて催告書は必要に応じて作成するもので、実際には内容証明を使わないアプローチを試みることも多いのです。
そのかわり、基本的には相談者が自分で内容証明郵便による請求書や催告書を作れるようになるまで労働相談に応じます。必要に応じて、依頼人が作った内容証明の文章をチェックすることも相談として行います。
給料未払いをはじめとする労働紛争について、自分で作る内容証明については、当事務所ウェブサイト『ひとりで できるもん!?内容証明』を参照してください。
ただし、筆者は労働者から使用者への働きかけにあたって、内容証明郵便という見かけにこだわることを決しておすすめしていません。