10.”残業代請求専門”の事務所 -過払いなきあとの一分野-
10.1.ビジネスとしての”残業代請求”
過払い請求後の可能性を指摘する論説は、平成22~23年ごろからあった。
『これまで過払金返還請求を中心に行ってきた弁護士にとって、それに代わる収入源として、当否は別にしても、十分な理由がありそうだ』(TheLawers2011.1 39ページ 牛島信(弁護士))
講師の感覚では平成24年以降、急に増加。
10.1.1.理由:(過払いとの類似性)
単純データ(勤怠状況)の大量入力作業
定型的処理で請求額の計算ができる、計算ソフト
立証が容易(労働時間記録ある場合)
一依頼人あたり請求額が数百万円に達する可能性 世間での関心の高まり・権利意識や正義感の充足
10.1.2.暗部:(ビジネスとしての過払いとの類似性)
過払い金返還請求に取り組んでいた頃の経営マインドを引き継ぐと考えれば、
全部説明できる現象
特徴
広告で集客する
無料相談を標榜する
完全成功報酬制をとる
電話や電子メールだけで全国対応する
残業代請求は労働者の権利だ、と強調する
残業代請求専門と自称し、他の類型の労働紛争にはノータッチ
任意の交渉・労働審判に重点を置く。訴訟の報酬は高めの設定。または説明なし
※上記のような事務所を批判することで集客するパターンも成立する。要注意。
問題事例
少額の請求の事案を見捨てる
140万円の限界に言及しない(司法書士)
請求する期間が2年あることを前提とし、2年なければ相談にも応じず断る
受任に際して複数労働者での依頼をしきりに推奨する
紛争を拡大させたり、彼らからみて儲からないと認識された相談者たちの泣き寝入りを促進する面を持つ。過払い事案のように競争激化を経たあと、ある程度真面目に執務せざるを得なくなる(少額事案を扱う)ようになるかはいまのところ不明。
企業側で対処する方針としてはどうか?
任意整理における消費者金融側担当者の対応はある程度参考になるのでは
(倒産寸前と言ってみる・和解できるが8割引・超長期分割払い・支払い開始が半年後…など)
10.1.3.司法書士が企業側に立つことの必然性
企業法務との関連(他の依頼がある中での相談)
140万円以下の請求であれば、代理権があれば当然可
任意整理時の経験が転用できる可能性(請求を受ける側で)
消費者金融側にいた担当者のような交渉人が、中小零細企業にはいない
労働者側で全国対応する事務所の増加で、本県にもいずれ影響は及ぶ
↓
労働者側での関与と異なり、結局避けられなくなるかもしれない
このコンテンツは平成25年10月に、業界団体で実施した研修の教材です。
司法書士の研修のために講師として作成していますので、一般の方に有用でないこともあります。
個別の問題については、有料の相談をお受けしています。