3.各種手続きの特徴
3.1.労働基準監督署への申告および相談
総合労働相談コーナー(全国 平成24年度)
総合労働相談件数 106万件(前年度比3.8%減。21年度114万件がピーク)
民事上の個別労働紛争相談件数 25.4万件(0.6%減。23年度25.6万件)
あっせん申請受理件数 6千件(7.1%減)
・同年度新潟労働局管内
総合労働相談件数 11994件
民事上の個別労働紛争相談件数 3252件
あっせん申請受理件数 66件
総合労働相談コーナーは厚労省内では個別労働紛争解決のためのワンストップサービスの一種として位置づけられる。
必要に応じて労基署への申告・労働局でのあっせん・職安での失業給付等手続・法テラス等に振り分けを行うことが期待されている。各労基署には必ず設けられており、労働者側・使用者側いずれも利用可。
『民事上の~』件数は、解雇、雇い止め、退職勧奨、労働条件の引き下げ、いじめ、嫌がらせなどの相談件数。約4割程度が労働契約の終了に関する問題で、労基法違反を構成する賃金不払い等は含まない。賃金・残業代・解雇予告手当の不払いは下記の申告を通じ、取締(最終的には処罰)を視野において対応するのが原則。
労働基準監督署への申告
事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。(労基法104条1項)
労基署には労働者に申告に応じて監督権を行使する義務はない
(東京高裁昭56.3.26昭55(行コ)97号)
申告監督は、(送検を視野において)法違反の事案についてのみおこなうもので、直接の禁止規定がない事案は申告の対象にならない。
解雇予告手当の不払いは申告の対象となるが、不当解雇については申告の対象とならず、あっせん申し立ての対象となる。
匿名・電話・電子メールでの情報提供も可能であるが、効果は高くない。
反面で基本給不払いのようにわかりやすい事案では、代表者が出頭し資料と申告書を添えて説明ができれば出頭していない労働者もまとめて是正勧告の対象にされてしまうこともある。
裁判手続きの利用が始まった時点で、申告・情報提供に基づく労基署の関与は終了する
労基署への申告と司法処分
(労働基準監督業務 省内事業仕分け室作成資料から)
http://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/15-2c.pdf
平成21年(全国) 総合労働相談件数 114万1006件
うち、民事上の個別労働紛争相談件数24万7302件
監督実施件数 14万6860件
送検された者 2320人
司法処分件数 1110件
内訳(約半数が労災関連)
賃金不払い事案295件 法令違反を原因とする死亡災害等事案432件
労災隠し事案102件 賃金不払残業事案34件 その他247件
渋谷労基署
申告処理件数 4万8448件
処理に要した期間 37.1日
解決(是正)率 59.1%
その他、立替払いの適用 13.7%
指導に従わないもの27.2%
従わない理由:経営不振による資金不足、労働者に重大な責任があること
(金銭の横領、暴行、出勤不良等)
【重要】指導に従わない部分は、まさに裁判手続きで解決せざるを得ない
3.1.1.労基署への申告の流れ(一般的な賃金不払いの事案で)
労働者の、総合労働相談コーナーの利用
↓
主として嘱託職員による相談の聴取
↓
嘱託担当者で手に負えなければ労働基準監督官による聴取続行
↓
申告に適する事案であるならば、担当の監督官を決める 労働者が出向いた労基署が事業所を管轄する労基署と異なるならば、所轄労基署への転送手配
↓
担当する監督官は事業主への電話・文書等で出頭を指示(ここまでで数日~2週間)
↓ →出頭しない場合には事業所へ訪問実施
↓
事業主への事情聴取。状況により複数回実施
↓
事業主の対応により、是正勧告または打ち切り
↓
結論は労働者に報告される。主として口頭
所要期間は速くても最低一ヶ月程度かかる。事業主が上手に抵抗し労働側がなんの措置もとらない場合、数ヶ月かかることもある。
3.1.2.労基署への申告に関する問題
都市部では事業主への最初の呼びだしまでに2週間~10日を要する。
【重要】賃金・解雇予告手当等の事案では事実関係に踏み込んで調査することはほとんどない。事実認定に争いが生じた時点で、訴訟での解決しか選択肢がなくなる。
担当者が通告なく事業場に来ることさえ、ほとんどない。
申告とそれに先立つ催告書送付の段階で、証拠隠滅・虚偽の陳述を準備される。
残業代不払い事案で、1年以上の不払いがあっても3~6ヶ月程度の支払を命じる是正勧告が出ることが多い。
是正勧告の内容は労働者に詳しく知らされず、是正勧告書は情報公開制度に基づく開示対象にならない(労働者側が書証として提出できない)ことがあるため、以後の訴訟で労働者が有利になることはあまりない。
過剰な期待は禁物であり、労働者側から相談を受けたときには説明に注意を要する。
賃金不払いなどの労基法違反を構成する事案で、法的措置をとる前にある程度時間をかけて様子をみることができる場合には労基署への申告を採用可能。
労働者の相談から、過去に別件で労基署の対応が不奏功だったと判明した場合はこの手続きを取っても無駄と言ってよい。場慣れした経営者には、効果が低い。
3.1.3.(労働者側で)労基署受けする申告を作れるか?
上記の特徴を把握すれば、状況により可能。
①.労基署側からみてわかりやすいこと
事案としてのわかりやすさ(申告の対象を単純な賃金未払い事案に限る、など)
説明としてのわかりやすさ(記載を充実させた申告書を持たせる)
②.できるだけ大規模な事案にすること
同様に被害を受けている労働者をまとめ、重要な事案に見える外形を作る
③.少なくとも労働者側の代表は労基署の担当者に直接会って説明すること
電話・電子メールでの情報提供にはあまり積極的に対応しない傾向がある
労基署への申告にあたり、申告した労働者の氏名を使用者に伝えないよう依頼可
多数労働者による申告ならば、違法状態の是正を要する労働者の名前が使用者側に伝わっても誰が首謀者かわからない
④.必要があれば司法書士による同行の手間も惜しまないこと
上記②に関連するが、主役はあくまで労働者本人であり、労基署には積極的対応の義務はないことを意識して対応することを推奨
※労働者が困っているのだから労基署が何か対応して当然だ、という態度をとっても、得られるものはない。
⑤.見込みがなさそうなら速やかに手続きを打ち切ること
場慣れした経営者に対しては労基署はあまり脅威とならない。
そうした事案で労基署側に負担をかけることが好ましいとも考えられない
3.1.4.(使用者側で)労基署は脅威たりうるか?
賃金・残業代程度の未払いで起訴→有罪になることはほとんどない。(3.1.項参照)
そもそも、書類送検されることすらほとんどない。
→処罰の可能性を声高に論じる実務書・代理人の見識は疑ってよい。
処罰を期待する相談者には実情を話して説得を試みるが、罰則規定の存在に固執するなら依頼回避を推奨する。
上記の申告の流れの中で、使用者側が適切に労基署側に協力すれば、賃金等の支払い義務はあってもそう酷な是正勧告はでない。
賃金不払い事案でも分割払い等の計画がだせればよく、遅延損害金を払えとも言われないため、使用者側代理人としては労働者側とこの時点で和解してしまうのがベスト
3.2.あっせん
県労働委員会のあっせん
もともと労組対会社の紛争=集団的労使紛争を解決するために設けられていた各県労働委員会が、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(主として20条)に基づいて設置している。
労働局(紛争調整委員会)のあっせん 一般的なのはこちら。個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律5条に規定。
県労委と労働局(紛争調整委員会)のちがい
労働局でのあっせんは原則的に、労基法違反事案をあっせんの対象としない。
しかし労基法違反部分を含む申立がある点を問題視してはいる模様。事実上受理することもある。
県労委のあっせんは賃金未払いなど労基法違反を構成する紛争全般と不当解雇等を一括で扱えるため、汎用性は県労委のほうが高い。
相手方にあっせん開始に応じてもらえれば、県労委のあっせん員の水準は高い(大手の労組の執行部を構成する人が労働側あっせん員になることがある)
県労委のあっせんは『村上、長岡、南魚沼、上越、佐渡の地域振興局など』で期日を開くことができる
(ウェブサイトの記載より)
『補佐人』として、期日への司法書士の同席を許す県労委もある
※以上から、使用者側であれ労働者側であれ
ADRの利用を望むなら、県労働委員会へのあっせん申立を推奨する。
個別労働関係紛争のあっせん(新潟県労働委員会)
http://www.pref.niigata.lg.jp/roudoui/1194365747003.html
合同労組への、利用的加入
県労委では、労働組合が申請人となって使用者会社を相手方とする、労働関係調整事件を扱う。申請人が労働組合であるため、不当労働行為の排除や団交の促進など労組固有の紛争のほか、賃金不払い・不当解雇などの個別労働紛争に関わる紛争も申立の対象となる。
したがって、労働者が合同労組に加入後に労働組合を申立人として労働関係調整事件を申し立てた場合、実質的には労組を代理人としてあっせんを申し立てているのと同じ働きをすることになる。
申立当事者となった労組がカンパと称して成功報酬を取った場合の問題点につき、検討を要する。
裁判傍聴を通じて支援した、という理由で訴訟終了後に労働者にカンパを要求する労組もあるため、合同労組加入中の労働者からの依頼受託には特に慎重であること。
もちろん、受託に際して労組からの脱退を推奨すべきではない。
3.2.1.共通する特徴
・無料で申立可能
・相手方に応諾義務なし
・不当解雇事案での解決金額は、労働審判より低い
・対立当事者側の意向を探れるという点では、意味がある
労働局へのあっせん申立は個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第16条で時効中断の効力はあるので、とにかくやってみれば、という助言も可。県労委へのあっせんについては対応する条文がないため、催告としての効果を持つにとどまる。
【重要】使用者側で積極的にあっせんへの出席・応諾を促す考え方が、複数の弁護士から示されている。
解決金額の低さと申立への対応の手軽さ=費用対効果に着目するものであり、労働者側が本人だけであっせん申立に踏み切った場合の対応として魅力的。
3.3.この他の有償ADR
新潟県では弁護士会、社労士会のADRが利用できる。各県社労士会は民間ADRの認証を取得しつつあるが、労働紛争において積極的に選択する意味はない。
理由
同様の手続きを県労働委員会が無償で行う
申立の難易度・相手方の応諾義務について県労委のあっせんと違いはない
県庁所在地に来れるなら労働審判手続の利用により、債務名義も取得できる
相談担当者の立場や意向(たまたま弁護士だった・社労士だった)で推奨されてしまうことがあり、注意を要する。特に社労士について、あっせんを推奨する事例が増加しつつある。
※姑息ではあるが、相手方にこれらの手続きを利用したい意向を持つ者が代理人として現れた際には話し合いの促進のためにこの手続きに乗ってしまうことは当然考えてよい。主体的に選ぶべき手続きではないというだけで、必ず回避しなければならないものではない。
参考:
新潟県弁護士会 示談あっせんセンター
http://www.niigata-bengo.or.jp/consultation/personal/mediation/index.html
社労士会労働紛争解決センター新潟
http://www.sr-niigata.jp/publics/index/14/
このほか民間の(社労士会含む)認証紛争解決サービスで労働紛争に関するものについては
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/itiran/funsou018.html
3.4.民事調停
当事務所では4件関与。
申立人となった3件は全部不調。
相手方として受けた1件(債務不存在確認請求)は、逆に解決金を得て調停成立
不調となった事案でも、調停段階で示された金額に近い水準で通常訴訟移行後に和解できることがある(互譲を目指すが、そうおかしな条件を提示するわけではない)
労働審判と並んで、具体的な請求権に基づいて申立を起こす必要がない『申立人(会社)は相手方(労働者)に対し、相当額の金員の支払いをすること』との申立ても可
あえて選択する条件
(労働者側)
相手方が事前の協議には応じており、債務名義になるものがほしい
県庁所在地が遠いため、労働審判が選べないが不調も覚悟している
(使用者側)
労働者側に戦意が低い
(戦意は高いが、手続きに巻き込んで引き延ばしたい場合も可)
労働者を援護する専門家の着任を期待しにくい
(代理人として、相手を過剰に追い込みたくない)
労働者側で専門家が着く前に、使用者側から申立をし、値切って終わりたい
(申立書の記載に工夫を要する) 労基署の関与をとにかく止めたい(申告に基づく呼びだしは止まる)
代理人として、自分の能力に不安がある
(申立書に厳密さは求められず、調停委員に社労士がつくこともある)
選択してはいけない状況
(労働者側)
経営者が自己の見解に固執する(決裂するのが見えている)
本人訴訟で書類もしっかり作れるのに、地裁本庁所在地の簡裁に申立する
(労働審判のほうがよい)
労働者側での事前相談の重要性
相談段階で経営者・管理者の個性をよく聞き取って、言動に異常が見いだせる場合にはあっせん・民事調停を選択しないほうがよい。
3.5.通常訴訟・少額訴訟
労働紛争でこの手続きを取る際に期待する要素
自分に有利な管轄の選択
欠席判決(遅延損害金及び訴訟費用の回収)
文書提出命令の利用
仮差押・仮処分の手じまい
傍聴人の動員(労組が得意)
労基法114条の附加金請求
特に通常訴訟の場合
意図的引き延ばし(破産申立間際の会社に顕著)
【重要】証拠書類が貧弱であるため、相手のミスを誘って反撃せざるを得ない状況
上記を期待して選択するならば、積極的に採用する意味がある。
多岐にわたる請求を行う・労働者性や管理監督者該当性を争うなど、論点が複雑なため労働審判の利用に適さない場合には、消極的に通常訴訟を選択せざるを得ないこともある。
※支払督促について
①債務者側が送達を受けたあとなんの反応もしなければ、結果的に債務名義が得られる、という点では欠席判決を狙う場合と変わらない。
②欠席判決+訴訟費用額確定処分申立と支払督促とで最終的に得られるものは同じ(実費までの完全な回収)になる。
③支払督促で異議申し立て期間経過寸前に異議を出された場合、そのぶん第一回口頭弁論期日の指定が遅れる。
以上のことから、支払督促を選ぶ意味は費用面では見いだせず、期間の面では欠席判決を得るまでと比べて数週間速いだけ。
この期間が重要になることは考えにくいため、支払督促を選ぶ意味があまりない。
遠隔地の裁判所に郵送で支払督促申立を行った労働者から時折相談を受ける。この場合は、異議後の訴えをいったん取り下げても有利な管轄で提訴できるかまず検討する。
3.5.1.簡易裁判所への提訴で注意すべき事項
①厳密な主張立証をして争わない場合→和解勧試が強引または適当
②厳密な主張立証をして争う場合→地裁へ裁量移送される(民事訴訟法18条)
③土地管轄に寛容すぎる(原告側本人訴訟で、あきらかに管轄がないのに受理する)
上記は複数発生した事例
④和解に代わる決定で、提訴の日以前の遅延損害金をつけ忘れた(同法275条の2)
⑤和解に際して、訴状がわかりにくいと言う司法委員。
わかりにくい箇所を聞いた原告に「訴状を読んでない」と回答(東京簡裁)
上記はいまのところ各一例のみ。
3.5.1.1.裁量移送事案
①.地裁本庁所在地の簡裁→地裁本庁(管理監督者該当性)
内容:労働者は会社の登記上の取締役。請求に係る期間の一部で新たな子会社の代表取締役も兼任したが、業務の内容は変化無し。
給与明細の労働日数の記載から、週40時間を超えて就労したことによる時間外労働割増賃金および一方的減額後の賃金差額等の請求をおこなった。労働者の当初の月給のうち、子会社の代表取締役就任後は半額ずつが旧会社と新会社から支払われるようになったが、賃金全額を基本として割増賃金の請求を行った。
訴状を提出した簡裁は、直ちに地裁へ移送。会社側は管理監督者に該当との抗弁で争ったが、請求額の半額弱で和解した。所要16ヶ月。
②.独立簡裁→管轄内の地裁支部(フレックスタイム制の有効性)
内容:フレックスタイム制度について、出退勤時刻を労働者が自由に決定できない実情があるため無効と主張した。
併せて、会社側に備置されている勤怠記録ではなく労働者が手書きの手帳・日報で記録した労働時間通りに残業代を支払うよう請求。
会社側はフレックスタイム有効、会社が備置する労働時間記録が正しいと争い、第一回期日で移送となった。
判決ではフレックスタイム制度の無効は認められず。労働時間数は労働者側の主張を認め、請求額元本の4割強の支払に加えて、同額の附加金の支払いを命じた。所要21ヶ月。
③.地裁支部所在地の簡裁→地裁支部(変形労働時間制の有効性)
内容:先行して、会社側が申立人、工場労働者A・Bを相手方として、時間外労働割増賃金の支払い額について合意するよう求める民事調停が申し立てられており、これが不調となっていた。会社側には弁護士代理人付き。
この会社で勤怠時刻は正確に記録されていたが、会社側の賃金計算が不明確であり、一年単位の変形労働時間制の導入要件を満たしていない可能性があった。このため労働者らが原告となり、変形労働時間制を無効とする賃金計算を行って提訴したところ、第一回期日で移送となった。
移送後も引き続き賃金計算の根拠・当否の開示は会社側・弁護士から得られず、和解勧試も不奏功。
裁判所は自庁調停に付すと同時に調停に代わる決定を出し、解決金として労働者Aには請求額元本と遅延損害金の全額に加えて、附加金の一部に相当する70万円、労働者Bには附加金の全額を若干超える30万円を、それぞれ支払うこととした。双方当事者ともこれを受諾。所要13ヶ月。
④.地裁支部所在地の簡裁→地裁本庁(労働者性)
内容:即時解雇されたホステスが解雇予告手当および諸々の罰則による賃金控除の返還を求めて提訴したところ、会社側はホステスとの契約を業務委託類似の契約であり、労働契約でないとして争った。この時点で講師は書類作成を受託。 以後、労働者側はこれに対し、同様の結論を得た判例を摘示しつつ労働者性を主張立証する準備書面を提出したところ、第三回期日で移送決定を得た。
移送後は三回の期日が開かれ、被告側準備書面1通→原告側準備書面1通を陳述後、訴額の約4分の3の金額で和解となった。所要7ヶ月。
原告は提訴時に解雇予告手当の金額を過大に算定したため、請求できる金額の8割を超える金額での和解である。
本件は地裁の支部をまたがっての移送となったが、移送先となった地裁本庁は労働事件の専門部を有するほか事務所の所在地としての管轄は有している。
以上をみると、事実関係=働きかたの実情を綿密に立証しながら、
労働時間制の例外の有効性を争うもの(②・③)
管理監督者該当性および労働者性を争うもの(①・④)
これらが裁量移送の対象になっている。移送先はかならずしもその簡裁を管轄地域に含む地裁とは限らない。
単に週40時間を超える契約の無効を争う割増賃金請求訴訟は、他に争点がなければ移送されたものはない。
変形労働時間制の無効を争う訴訟でも、経営側から早期に和解提案がなされる場合は移送されない事例がある。
これらの例で原告側はすべて本人訴訟、被告側は弁護士が訴訟代理人だったため、訴訟代理人の有無と裁量移送との関係は不明。
依頼人側に本人訴訟をおこなう能力があり相手側に弁護士が就任した場合、本人側での訴訟活動による移送決定をきっかけに好ましい立場にたどりつく(本人訴訟ではあるが、地裁では素人として見下されることがなくなる→早期に妥当な額の和解提案がなされる)こともあるため、講師の事務所では裁量移送の判断は歓迎される。
このほか、被告側に許可代理人、原告側は司法書士代理人がついた事案で原告側が裁量移送を申し出たところ、口頭弁論期日において裁判所から移送が妥当との見解を得た。その期日に和解成立となったため実際には移送されていないが、地裁への移送に際して簡裁でしか活動できない代理人の関与は考慮されない可能性がある。
3.6.労働審判
迅速な解決が期待でき、請求額無制限
最初から裁判官が調停にあたるため、民事調停とは比較にならないほど会社側への説得力が強い
「通常訴訟になったらこんな(少ない)金額じゃ済みませんよ!」
-某地裁第三回期日にて 裁判官による使用者社長への発言-
主張の当否が明らかな事案で『裁判官による、社長への説得(説教?)』を目当てにこの手続きを用いると効果甚大
3.6.1.注意点
【重要】第一回期日までに周到な準備を要する
それができるならば、本人申し立てで対応可能
ただし、実情はそうでない(約8割の申立で弁護士が代理)。
社会保険労務士が申立書作成に関与する例が継続的に発生。
第一回期日の所要時間が1時間~4時間と長く、労働審判委員会が主導権をとって当事者からの事情聴取を時系列と証拠書類に沿って精力的に行う。
この間、書類がしっかりできていれば代理人の発言はあまり求められない。
期日では和解のときを除き、代理人が積極的に活動する実情がなく、本人訴訟を行う者に対して脅威にはならないと考えてよい。
裁判所により、労働審判手続には弁護士の代理人就任が望ましいという立場を取る。口頭・文書で申立人を指導することがあるが、当事務所では具体的問題の発生なし。
以上のことから、労働審判は司法書士の関与(書類作成援助を含む)に向く特徴を持つ手続きだといえるが、現状ではあくまで可能性にすぎない。
これを実現するには、労働訴訟全般での書類作成能力の向上と『労働審判に回してよい事案とそうでない事案』の振り分けを正しく行う能力が必須である。
3.6.2.労働審判に適する事案
主張の面で
既存の裁判例に逆らわない
独自の法解釈を持ち込まない
多岐にわたる請求を行わない
相手側の不当性が明らか
立証の面で
厳密な事実認定を要しない
書証と裁判所から依頼人への質問のみで立証の大部分を終えられる
※反対尋問を試みたり、依頼人への尋問事項を列挙して裁判所に提出することは 事実上できない。
戦術面で
開廷表に掲示・傍聴されたくない
合同労組の介入(団交要求・あっせん申立)を合法的に抑止して労使間で直接交渉したい
特に解雇事案で、復職を求めない・求めさせない
具体的には
賃金請求
単に契約書記載の基本給が支払われていないような事案で、勤怠記録や離職票から支払義務が明らかなものは申立に適する。請求額不問。
嫌がらせ目的で支払わない、などという事案(会社側に不当性が顕著なもの)には効果甚大。
労働者の合意無き労働条件不利益変更での賃金差額の請求は、申立に適する。
残業代(その他割増賃金)
タイムカードなど勤怠記録があり、管理者ではない労働者の場合は申立に適する。
管理監督者性を争う反論が予想される場合は非推奨。
組織図等の書証から、管理監督者ではありえないと読み取れる場合は可。
フレックスタイム・みなし労働時間・裁量労働制の適用が、見かけ上適法に導入されている場合は不適。
上記の労働時間制度が、単に契約書に記載されているだけ・複数の制度が矛盾して導入されているなど、不適法なことが書証であきらかな場合には申立可能。
勤怠記録が手帳等労働者側で記録されているだけの事案であっても、駄目でもともとと割り切って(裁判所による説得を期待して)申し立てるには各裁判手続き中最適。ただし、大幅な譲歩を覚悟すること。
不当解雇・解雇予告手当
復職を求めるのは困難だが、事例はある
迅速に金銭解決をもとめる場合には、本研修で挙げた全手続きを通じて最適
※解決金額の最大化を狙う場合の方針としては仮払い仮処分・通常訴訟を採るが、和解できない場合の長期化・解雇理由によっては控訴審での労働側敗訴による一発逆転で全てを失う危険を無視できない
解雇予告手当を請求するのは可能であり適するが、労働者側なら解雇無効を争ったほうが楽
逆に使用者側ならば、相当額の解決金を払うから離職せよ、という申立を起こしてしまうことも可
退職金請求
使用者に退職金規定がある場合には申立に適する。請求額不問。
懲戒処分の撤回・無効確認
その懲戒が根拠がないほど、申立に適する。
セクハラ・パワハラ
あきらかな事実が残っていないかぎり、特に困難。
これらの慰謝料請求については地裁通常訴訟でも、合議体となることがある。
なお、相手方で少なくとも事実関係について認めていたり、特に訴訟にしたくない思惑がある場合にはADRと同様に申し立て可能な局面が到来すると思われる。
賃金等の請求のほかに付け加えておいて、解決金の底上げを図ることは可。
3.6.3.実施例
①.平成20年(第三回で調停成立)
請求:時間外・深夜労働割増賃金(140万円以下)
相手方代理人:あり
概要:
正社員として交代制で勤務したが、時間外・深夜労働割増賃金が一部不払いとなっていた。
シフト表およびタイムカードを書証として添付できたが、会社側はこの一部について正確性を争った。
第一回期日に大方の事実関係の聞き取りを終了。労働審判委員会側からは、この時点で請求額の8割程度で和解できないか打診を受けるが、会社側は『カネがない』を連呼して交渉難航。
第三回期日で労働者側がさらに譲歩し、そのかわり解決金を現金(請求額の約3分の2)で会社側から労働者に直接渡させて、手続きが終了した。
②.平成21年(第一回で調停成立)
請求:最終月の賃金(60万円以下)および懲戒解雇の無効確認
相手方代理人:なし
概要:
従業員5名ほどの会社の正社員。経営難を理由にいったん指名解雇後、些細な理由で懲戒解雇となり、最後一ヶ月分の賃金の支払いおよび離職票の発行を嫌がらせ的に止められた。
その後、会社は労働者に対し、離職理由を懲戒解雇とする離職票を発行。職安は離職理由の調査不能となった。
社長のパーソナリティに問題があると判断したが、返って労審申し立てに適するとみて懲戒解雇部分の無効確認(指名解雇は有効と主張)と賃金支払いを求めて申し立てをおこない、第一回で全請求を認める調停成立。ただし賃金は複数回の分割払いとなった。
半ばどさくさまぎれではあるが、会社に加えて代表者本人に未払い賃金の支払いを連帯保証させることができた。会社側も本人申立で社長本人が出てきたため、こちらの提案を採用した裁判所に押し切られた模様。
③.平成22年(第一回で調停成立)
請求:最終月の賃金(60万円以下)および地位確認
相手方代理人:あり
概要:
零細個人事業主のアルバイト従業員で、週3日程度の勤務。
勤務開始約1ヶ月後に即時解雇され、併せて賃金の一部が不払いとなり、労基署への申告も不奏功となった。この交渉過程で相手方からは、後日使用者側で作られた労働条件通知書が労働者に渡され、そこには期限の定めの記載があった。
本件では賃金のほか地位確認請求を行ったところ、未払い賃金全額に加えて約2ヶ月分の解決金の支払いを得て調停成立となった。
雇い入れ後1ヶ月しか在職していないアルバイトでも、解雇無効を争えば2ヶ月分に相当する解決金を得ることが出来てしまうほか、解雇が有効であることの立証責任は基本的に相手方(企業側)に行ってしまう。
書類がきちんと作れれば、司法書士による本人申し立てでも相当の成果を楽に得ることができると言える典型的事案。
④.平成22年(第三回で調停成立)
請求:賃金2ヶ月分・時間外労働割増賃金(140万円以下)および地位確認
相手方代理人:あり
概要:
従業員数十名規模の会社の正社員。採用後3ヶ月ほどで経営難を理由とする賃金不払いが発生し、その支払いを請求したところ、経営者の感情を害して即時解雇された。在職約6ヶ月。
賃金および解決金目的での地位確認請求のほか、労働者が記録していたノートに記載の労働時間数に基づく残業代を含めて申立をおこなった。ノート以外に労働時間の記録はない。
第一回期日で直ちに解雇無効の判断が示され、調停開始。使用者側はこの時点で、労働者が試用期間中だったと主張。
第三回期日で、賃金の5ヶ月分を目処とする金額の解決金の分割払いで調停成立となった。
もともと不払いだった賃金2ヶ月分のほかに3ヶ月分の解決金を得て、依頼人は満足しているが勝敗の判断が難しい事例。試用期間との主張があったため、3ヶ月分の解決金のうちどれだけが残業代にあたるのか、解雇無効に伴う解決金として考慮されたのか不明である。
⑤.平成23年(第三回で調停成立)
請求:賃金約8ヶ月分(140万円以下)
相手方代理人:あり
概要:
自称芸術家(個人事業主)方で就労したパート。採用後5ヶ月で契約を一回更新し、期間1年の労働契約としたが契約書は交付されず。更新4ヶ月後に、即時解雇を通告された。在職期間合計約9ヶ月。
契約期間経過後に受託したため、解雇を無効として解雇の日から期間満了日までの賃金相当額(約8ヶ月分)を請求することとした。
第一回期日で相手方は申立人の就労態度のほか、申立人は弟子であるとして労働者性を争った。これを受け、申立人はこの芸術家が受給した助成金申請書類の行政文書公開・個人情報開示の請求を担当部署におこない、労働契約書等を入手。これを第2回期日に提出した。
第3回期日で調停成立。約4ヶ月分の解決金を得たほか、たまたま同行してきた事業主の妻(事業用不動産の所有者)に連帯保証をつけさせた。
⑥.平成25年(第一回で調停成立)
請求:離職理由が会社都合であることの確認
相手方代理人:あり
概要:
派遣会社に就職した労働者が、病弱を理由に即時解雇された。当初の契約期間は2ヶ月でありその旨契約書を交わしていたが、解雇直前に契約を変更してさらに3ヶ月の有期雇用契約を締結していた。
解雇後、会社は退職届の記載を会社都合から自己都合に変造したものを職安に提出し、あわせて第二の契約の存在を隠し、契約期間満了による退社であるとも主張した。労働者は雇用保険の審査請求(離職理由が会社都合であることの確認)を管轄労働局に申し立てたものの、事実調査不能に陥る。
変造された退職届原本を期日において原本確認させることを事実上の目的として労働審判手続きを申立て、離職理由が会社都合であることの確認を求めた。
第一回期日では書類の開示はなかったが、申立通りの調停成立。調停調書を労働保険審査官に提示し、審査請求は取り下げ(職権で、離職票は訂正)となった。
この労働者は離職日までの雇用保険被保険者期間の関係上、自己都合で退職したことにされると雇用保険失業給付が受けられず、特定受給資格者(後述)に該当すれば条件を満たして受給できる状況にあった。
これらのほか当事務所で審判を得た事例は一例のみ。
相手方は支配人が出頭し、弁護士の関与なし。通常訴訟移行後、和解成立。
3.7.一般先取特権の行使
実現できれば申し立てから現金の入手までの期間が最速である法的手続きであり、効果甚大。
倒産間際で非協力的な会社を相手取った場合には、この手続きを選択するか放置して未払い賃金立替払い事業での救済に期待するかの選択を迫られる。
依頼人を督励して精力的に準備すれば、依頼から数日で申し立ては可能。
会社側で債務整理のための弁護士介入後、他の債権者と競合しながら目的を達成することも不可能ではない。
企業側からすれば仮差押と並んで奇襲攻撃をうけることになるため、企業側で防御を担当する場合でも労働側がこれを可能か否かについて常に検討を要する。
申し立ての件数は非常に少ない。同一の労働者について同一の裁判所に相次いで申請しても、担当書記官によって全然違う補正指示がでることもあり、申し立て担当者としても展開が予期できない。
動産売買先取特権等を含んでの、年間推定申し立て件数(推定は講師による)
申立件数は人口に比例せず、東京地裁に偏在する。
東京地裁本庁 1000件程度(平成21年12月申立)
名古屋地裁本庁 100件程度(平成17年12月申立)
大阪地裁本庁 200件程度(平成18年2・3月申立)
水戸地裁某支部 6件 (平成21年12月申立) (管内人口約40万人)
実施の要件
①差押可能な財産
②請求債権ごとの、要件事実と成立の真正を立証可能なだけの書証いろいろ
③手続きを行う担当者
少なくともこれらが揃っていないと、労働者としては実施に踏み切れない。
ADRで作成される和解契約書も、私文書として担保権の存在を称する文書(債権を目的とする場合、民事執行法193条)の一つとなりうる。
したがって労働債権については、「ADRの結果は債務名義ではないため、不履行になっても強制執行できない」とする見解は必ずしもあてはまらない(厳密な意味での強制執行ではないが、担保権の実行として差押命令が発令されてしまい、企業側への打撃としては強制執行と同じ)。
労働者が他にもっている文書と組みあわせた場合に、一般先取特権を行使できるだけの文書にならないか留意する。
事案に応じた多数の書証の集積とそれを適切に説明する証拠説明書・陳述書の添付が事実上必須であり、それがなければ相手にされない。書証については実施例参照
3.7.1.実施例
①.平成17年名古屋地裁
請求債権:税引き前基本給
差押債権:下請報酬
書証:第一審の対席判決の正本・該当期間の給与明細(捺印無し)・事業主が未払い賃金額と支払義務を認めた書類(捺印あり)
発令までの期間:提出日をふくめ、4開庁日
②.平成18年大阪地裁
請求債権:年俸制契約での、税引き前の基本給および賞与
差押債権:一回目は準委任契約に基づく報酬、二回目は銀行預金
書証:労働契約書・該当期間の勤務月報・事業主が税引き後の賃金額を基準にして未払い賃金額と支払義務を認めた書類
(以上は捺印あり)
・給与明細・該当期間の賃金台帳
(以上は捺印無し)
・賃金振込の記載がある預金通帳・会社印の捺印のある、第三者との契約書(印鑑証明書の代替として添付)・離職票・労働者の陳述書(労働契約の締結から未払い発生までの経緯および各書証の作成と取得の経緯につき記載)
発令までの期間:一回目は7開庁日。二回目は9開庁日
③.平成21年東京地裁
請求債権:解雇予告手当
差押債権:売掛金
書証:解雇通知(捺印あり)および封筒(消印あり)
・平均賃金計算期間にかかる給与明細(捺印無し)
・賃金振込の記載がある預金通帳・健康保険被保険者証・雇用保険被保険者資格喪失の確認請求書・職安が職権で交付した失業認定申告書(押印あり)
・会社側弁護士による債務整理開始通知・労働者による催告書・労働者の陳述書(労働契約の締結から企業の閉鎖・解雇通知の送達まで、および各書証の作成と取得の経緯につき記載)
発令までの期間:3開庁日後、取り下げの要請→他庁で再提出後、発令
説明:
社長が突然入居していた物件を引き払って所在不明となり、事業活動も停止した零細な洋服卸業者の事案。
所在不明と同時に会社側弁護士が破産申立を前提とする受任通知を出したが、労働者はこの弁護士から完全に放置された。
事業停止から2週間ほど後に、解雇通知は社長から速達で送付。最終月の賃金は不払いとなった。
この会社の売掛金支払いサイトは約2ヶ月だったが、最後の売掛金振り込みまで1ヶ月を切った時点で受託、書証が揃っていた解雇予告手当の請求のみ本件申し立てに適すると判断して申立を実行した。
本申立は当初、水戸地裁某支部に提出したところ管轄違いを理由に東京地裁に提出を指示された。東京地裁に提出したところ、某支部の判断誤りと判明。提出から3開庁日後に、申立内容に問題はないが管轄がなく、取り下げるよう指導が入る。
取り下げ後に再度某支部に提出したところ、さらに3開庁日後に発令された。
この申立に並行して、他の債権者による仮差押・動産先取特権に基づく差押も同時期に行われた。
破産申立代理人による受任通知が、誰からも尊重されるというわけではない事例。
3.8.債権仮差押
司法書士の簡裁代理権で確実に完結でき、一般先取特権の行使より遙かに容易
訴訟代理を行う場合、簡裁への仮差押申し立てでは、依頼人の同行は不要(要確認)
【重要】未払い賃金が被保全債権の場合、保証金は被保全債権額の20%程度
小規模庁では裁判官がいないために発令・面接が遅れる可能性(管轄選択の必要性)
仮差押の成功後、債務者となんらかの和解を経て取り下げは当然可(担保取消に必要な書類を必ず徴求すること)
簡裁の裁判官面接で聞かれたこと(被保全債権は基本給・休業手当 合計約30万円)
①.受任した理由
②.差押債権を把握できた理由
③.(訴訟代理として受任した結果、労働者にとって)費用倒れしないか
④.本案訴訟を起こす気はあるか
⑤.担保提供額(約6万円)
※書類の内容にもよると思われるが、申し立ての内容とはほぼ無関係。所要時間数分。
手続き上の問題
地裁では申し立て債権者への面接がある庁とない庁があり、要事前確認。
地裁・簡裁とも、午前中に申立書が提出できれば当日中に供託まで可能。
債務者が不動産を所有していないことの疎明を求める裁判所がある
(登記情報・ブルーマップのコピーを提出)
賃金等をめぐる請求では『とにかく担保が積めれば、売掛金や銀行口座に仮差押えがかけられる』
→これを破綻間際の会社にやったら、どうなるか?
3.9.未払賃金立替払い事業の適用
労働側で関与する場合、『立替払いの制度が適用される可能性を確保・増大させるように』債権回収にあたることが極めて重要であり、また可能である。
計画立案にあたっては、労働者の離職と倒産との時期的関係に、特に注意を要する。
立替払いを受けられるのは定期賃金(残業代含む)と退職金のみであるため、他の未払い金を含めて裁判外和解するような場合には内訳の明示と充当関係に注意する。なるべく、最後の賃金部分を未払い金として残すこと。
解雇予告手当・休業手当・事業主への貸金や未精算の費用は立替払いの対象とならないため、これらの部分から回収・充当する。
参考
http://www.rofuku.go.jp/tabid/687/Default.aspx
http://www.rofuku.go.jp/kinrosyashien/pdf/tatekae_seido2.pdf
要件
①労災保険の適用事業場で
②1年以上にわたって事業活動を行ってきた企業に
③労働者として雇用され、企業の
④倒産に伴い ⑤一定期間内に退職し、
未払い賃金が2万円以上残っている人であること
これらの要件を満たす労働者に、年齢別に上限が定められた金額で未払い額の約8割が立替払いされるが、申し立てが行われなければ適用されない。
特に事実上の事業停止(私的整理もこれに該当)など、管財人・企業側代理人弁護士が関与しない場合に労働者が放置される
①②もっぱら事業の内容で判断する。労災保険関係の成立=適用事業所設置の届出の有無を問わない
したがって、なんらかのかたちで使用者の事業開始の時期(少なくとも1年以上人を雇って事業活動を行ってきたこと)と内容があきらかになればよい。
③代表者は対象外であるが、名目上取締役として登記されていただけの労働者は対象となる
④【重要】中小企業(業種・労働者数・資本金で判定)の場合、倒産には法的整理のほか、事業活動の事実上の停止が含まれる。夜逃げでもよい
この場合は労基署の認定を待つことになり、申請から約6ヶ月程度の期間を要する。
⑤法的整理の申立日・事業停止に関する労基署への認定申請日の『6ヶ月前』から『2年後』のあいだの期間に退職していること
実際には倒産に向けて徐々に従業員が離職していくため『6ヶ月前』が非常に大きな問題になる
このコンテンツは平成25年10月に、業界団体で実施した研修の教材です。
司法書士の研修のために講師として作成していますので、一般の方に有用でないこともあります。
個別の問題については、有料の相談をお受けしています。