論点整理−平成13年6月−
「ぼくは労働訴訟ができる司法書士になります。そのために社会保険労務士の資格をとります!」
芦葉を訴えた僕の訴訟が津島の簡易裁判所から移送された名古屋地裁。そこからさらに自庁調停に回ってようやく妥結した際に、よりによって『司法書士と社会保険労務士の調停委員さん達に=業界の大先輩達に』宣言したのが平成13年6月。あと2ヶ月で社労士の試験だ。
自分が行くべき道がきまったこともたいへん重要だが、砂上への賃金支払い請求権の時効消滅も迫っている。結果として芦葉との訴訟がおわって息つく間もなく、次は砂上を相手取らなければならなくなってしまった。平成12年9月に訴状を出して以来、解決が平成13年6月までもつれ込んだのは敵の弁護士がいい加減だったおかげだ。この、ヤメ検のじいさんが自分の都合で口頭弁論を欠席したり実質的な弁論をせずに流したりしなければ、もう2ヶ月は早く終わっていたのに。
せめて砂上に内容証明だけでも打っておかないと、9月になったら最初の一ヶ月分の賃金債権が時効で吹っ飛ぶ。あと3ヶ月しか残ってない。しかも社会保険労務士試験が8月末だ。砂上に対して勝負に出られるのは9月以降だから、これからは打つ手打つ手がすべて適切でないと、やり直しをしてる間に時効が毎月やってくる。
砂上事務所のようにいい加減な労務管理の事業場にはよくあることだが、就労状況に照らして法的に問題にできそうことは結構多い。この次の訴訟は、確かに最大のメインは時間外労働割増賃金=残業代の適切な支払いだが、駆け引きの材料として請求するだけはしておいた方がいいものもある。
まず
- 1.割増賃金は適切に計算してやれば、時間あたり1000円よりずっと多い。
- 2.基本給が9月就職時とくらべて10月、11月に5000円減少したが、これは承諾のない減給と解釈できるか。
- 3.2月の中途離職に伴っての賃金も、時間あたり1000円としているのは不適切。
このあたりは確実に勝てそうである。残業時間としてタイムカードに計上していない分が膨大にあるが、さすがにこれは証拠がない。くやしいが、請求のしようがない。
- 4.砂上の妻の「無理していんでもいいよ」に始まる砂上夫妻の言動は解雇である疑いが大。
最後にまずお金が取れるとはおもえないが
- 5.求人公開カードの「賞与」は、一応在職年限で案分して計算したうえ、差額を請求してみることにできないか。
- 6.訴訟を起こして判決までなだれ込まないとだめなのだが、割増賃金未払について労働基準法所定の「付加金」がとれるのではないか。取れないとしても、その可能性を、訴訟上どう使うか。
あとは民事上の請求ではないが側面から叩ける材料として
- 7.社会保険加入がなかったが、これはなにか使えるか。
- 8.労働基準法その他労働法の他の違反事項も。
- 9.数々のごまかした申請について、刑法または都市計画法違反で行政書士会・土地家屋調査士会への通報、または刑事告発の可能性。
切り口はこんな感じだろう。手持ちの証拠と法律と裁判例から作戦を考えていくことにする。今回実現しなければならないのは、「無理なくお金を取ること」だ。
大げさに言えば基本的人権、控えめに言っても人格や誇りというようなものを守るために、『雇用保険加入に協力しなかった事業主への損害賠償請求』という、先例で否定されていた請求をあえて掲げて提訴した芦葉に対する訴訟とはかなり傾向が違う。よってこの方向では、8.の刑事告発は多分使えない。これを本気で言うのは自分が馬鹿で間抜けな素人ですと宣言するようなものだ。業界団体への通報もだめだ。ぼくが補助者として関与しているのだから諸刃の剣になる。なにしろ砂上には、もともと順法精神がない。
芦葉には、内容証明で行政書士会への通報の可能性をぶつけて未払報酬を回収する、という手は確かに使えたけれど、それは彼が自分の正当性を常に主張したい、自分の失敗が外に露見するのを嫌うタイプの人間だったから、にすぎない。芦葉の関心が「カネよりプライド」なら砂上は「プライドよりカネ」だと考えていいだろう…だからまず、
9.は土壇場で裁判外での駆け引きが必要になったときに使うだけにする。ただし実際使う場合にそなえて、昨年12月に図面をごまかした開発行為変更許可申請の現地については擁壁の下を掘って写真に撮っておく。これはヘタに使うと、自分も都市計画法違反になりかねないし、脅迫だの恐喝だのになりかねない。それで砂上事務所がひっくり返るのはいい気味だとしても、自分が将来司法書士として登録する際に、素行不良とみられても困る。
8.は証拠がはっきりしている割増賃金不払いの時間外労働について、それ自体労働基準法第36条違反ということを訴訟上強くアピールしていく。うまくいけば裁判官の印象がこっちに有利に傾くはずだ。
7.これはもう一回、行政側から砂上事務所をつついてみるのに実際使ってみる。
6.付加金の請求は、訴訟上つけておく。訴状に貼る印紙の額も、大してふえはしない。和解交渉の席に着いたとたんに吹っ飛ぶことはわかっている請求だが、それならそれでうまく「こちらが譲歩したように見せる」ことができるかもしれない。一種の景気づけ。
5.賞与に関しては年4ヶ月分と言ってるがそもそも求人公開カードの内容がそのまま契約条件になるわけではない。それに常識として入社直後の人間が就労期間で賞与を案分できるというのはやや無理があるだろう。
しかし、それを明確に否定することは実は誰にもできない。ここが契約書もなければ労働条件を明示してもいない砂上の弱み、ではある。よってこれは、裁判官の心証を損ねたくないので裁判所には持ち込まない。ただし内容証明では、これも景気づけに書いておくことにする。これで未収債権が妙に増えてしまうが、こっちが最低限押さえたい金額はその半分程度なので、こっちにとっては全面勝利でも向こうから見ればぼくの請求を半分以上阻止したように見えるだろう。
向こうに弁護士がついた場合、この部分は弁護士の成功報酬になる。その報酬を払わされるのはもちろん、ぼくではない。
4.当時のぼくと砂上夫妻の意志の流れを冷静に辿る限り、すくなくともぼくにはあの時点で(やめてもいいとは思っていたが)辞めるという意思表示を彼らより先に出してはいない。経営者の妻が「無理していんでもいいよ」という意思表示をしただけではせいぜい退職の勧奨にすぎないが、その後砂上が退職の期日を聞いてきたことは、すでにぼくが退職するものと決めているに他ならない。辞めろ、とは言っていないが辞めるものと扱っているわけだから、これ自体黙示の解雇の意思表示だと言っていいだろう。
それに砂上開発の発行した離職票には、離職理由を「解雇」にしてくれてある。これまで解雇をめぐって紛争になったことがなかったから馬鹿正直に書いてしまったのだろう。この証拠はそれ自体解雇の事実を証明するし、上手に使えば法廷で、砂上のウソをひっくり返して裁判官の心証を一気にこちら有利にすることができるはずだ。
奴のことだから、この解雇をめぐって争いになれば、どこかで必ずウソをついてくれるはず。しかもそんなに頭はよくないから、この証拠の存在自体を忘れて「解雇など、していない」と言ってくれる公算が大きい。
こっちはそれをとらえるまで、この最大の証拠−離職票を出さなければいい。
1.〜3.は、手持ちの給与明細と離職票から適切に再計算して堂々と請求するだけ。
これができなきゃ死んだ方がまし。そして、ここを手堅く取れればそれを勝利水準としよう。
このコンテンツは、ブラックな零細企業の残業代不払いと本人訴訟の体験談です
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