不動産の名義変更を自分でするために『名義を変える』ということは…?

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登記原因はなんですか?名義を変えるはなしの前に

ある法務局で、こんなやりとりを耳にしました。

妙齢のご婦人
 「あの…家の名義を変える手続きをしたいんですけど…」
不動産登記窓口担当者
 「トーキゲンインはなんですか?」

ご婦人「…??…」

窓口担当者(すこしいらだった様子で)
 「だから、その家の名義が変わることになったのにはどんな原因があるんですか?売買とか相続とか」
ご婦人
 「ああ、先だって父が亡くなりまして、家の名義が父になっていたものですから」

筆者(心の中で)
 「普通の人に登記原因なんて言うなよな…少しは言い方考えりゃいいのに」

不動産の名義変更が「所有権移転登記」です難しいことも簡単なこともあります

土地や建物=不動産の名義を変える、という言い方があります。

よく耳にする表現ですが、対応する手続きの名前が別にあります。
上記でみた窓口担当者の応対はそれ自体今ひとつの感があるのですが、不動産登記の世界では土地や家の名義変更の手続きを所有権移転登記と呼んでいます。

土地や家の名義変更をしたいという方の意向をよく聞いて適切な『所有権移転登記』あるいは『持分(全部・一部)移転登記』を行うのが、不動産登記制度と依頼人の間にいる司法書士の仕事です。

不動産の登記移転・所有者変更・名義書換といった言葉で検索している方もいるでしょう。所有権移転登記というキーワードで探すと、より多くの情報が出てきます。

あらためて、登記の「原因」はなんですか?どうしますか?かもしれません

名義変更=所有権移転登記の申請が必要な場合でも、なぜ土地や家の名義が変わるのか、あるいは変えようとするのか、その原因や理由はさまざまです。
その理由によって行う登記の手続きも違ってきます。
手続きの仕方や、後で発生する費用や効果も変わります。

登記申請の仕方や時期を話し合える知人・親族との不動産譲渡では、むしろ関係者に有利になるように登記の原因を調整できると考えたらどうでしょう。
ファイナンシャルプランナー(筆者はFPでもあります)はそんなことも考えて相談をしています。

登記申請を自分でする前に書式がわかればいい、とは考えません

相続や生前贈与で土地や家の名義変更をするとき、登記の手続きを司法書士に依頼せず自分で終える人もいます。
必要書類の見本や説明を掲載して、所有権移転登記は自分でできるというウェブサイトもあります。

しかし名古屋市内の法務局を見る限りここ数年、自分での不動産登記申請はまだ登記申請件数の一割弱にとどまっているようです。所有権移転登記だけでなく建物の新築(建物表題登記)や住宅ローン返済後の登記(抵当権抹消登記)を含んでもその程度です。

不動産の名義変更が自分でできたという情報はウェブから取れるようになりました。
しかし自分で手続をしたい人が注意することや相談先は目指す効果によって変わります。

自分で土地や家の名義変更をするときの最大の問題は、ウェブから所有権移転登記申請書や売買契約書の見本が見つかるかどうかでは決してないのです。

お伝えするのは不動産名義変更の「準備や別の考え方」です

このコンテンツ「『名義を変える』ということは…?」は、土地や建物の名義変更(生きている人や死亡した人からの、所有権移転・持分移転登記)を思い立った方、手続きを自分でしたい方のために司法書士・FPが作りました。

個人売買や生前贈与や離婚に伴う不動産譲渡、遺産の相続など、土地や建物の名義を変える主な理由、不動産登記の用語では『登記原因』をとりあげて、不動産の名義を変える前後で注意しておきたいこと、手続き費用などを説明します。

宅建業者を介する、他人との土地建物売買に関してはここでは考えないことにします。
このコンテンツでは特に、司法書士を使うか自分で決めることができ、登記も自分でできそうにみえる不動産名義変更と関連手続を中心に考えていきましょう。

必要書類の書式の説明は、あまりしません見本は法務局のサイトで

ここであげる所有権移転登記申請のほとんどは、方針さえ決まれば手続き自体は自分でできるはずです。
ですが登記申請は自分でできても、名義変更のあとで過大な税金をとられたり新たな紛争を起こす人もいます。

名義変更の仕方より、その手続きでいいかを考えたい方へ

むしろ肝心なのは、所有権移転登記申請の完了ではなくその申請を含む適切な手続きの選択と準備なのです。これは出費や資産のあり方として、みなさんのライフプランに長期に影響します。このコンテンツでは、登記申請書その他必要書類の見本は主に法務局ウェブサイトに出ているものをご案内するにとどめています。

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説明や相談が大事な理由家の名義変更の失敗例から

理由はない/契約書も作らない/名義変更だけ希望?ありがちな相談ですが…

家の名義が変わればいいだけだ。
契約書も要らないと聞いた。
早く登記申請書のひな形見せろよ!

と、はっきり言われたことはないですがこんな考え方の人もいます。
家の名義変更の失敗例を通じて、何が問題なのかみてみましょう。

1.不動産の名義変更が必要な(そう思える)状態の発生

生前贈与や離婚、遺産相続、たまたま空き家を売ってもらえることになった、などで土地や家の名義変更を要する(らしい)状態が発生します。

ウェブで登記申請の仕方や必要書類の見本を探し出すのはこの段階でしょうか。
不動産の名義変更を思い立つきっかけは他にもさまざまあります。

理由はないが、いま家の名義変更をしておきたい。
権利書だか登記簿だか知らないが、それが新しい名義に変わればいい。
そうお考えの方もいます。
手続き終了までその発想から抜けられない人はほぼ失敗しています。

家がもらえる、タダでさっそく贈与で名義変更だ、と…

「離婚を控えて、夫の名義である家を譲ってもらおう」と考えた女性がいました。
この方は離婚前に「贈与」を登記原因とする所有権移転登記を自分で申請しました。
離婚を控えて家の名義変更が必要だと気づき、タダで土地建物を貰うのは贈与だとどこかで聞き、その通りに所有権移転登記の手続きを終えたのです。自分で。

2.可能な選択肢ごとの評価・費用の試算なにをやったら、いくらかかる?

司法書士やFP・税理士が行う不動産名義変更の相談では、もう少し遠回りします。

名義変更を経てたどり着きたい状態やご希望を聞いて、可能な手続きと費用を検討する作業を何通りかおこなうのです。
いったん弁護士や税理士の相談をおすすめすることもあります。

不動産の譲渡(贈与)では財産額が多いため、贈与そのものの是非の検討と贈与税に対する対策は必須です。しかし失敗例ではこの検討作業がなかったようです。

「名義変更は今するな」という提案も

検討の結果「いまは、不動産の名義変更はしない」という判断もあります。
よくある相談は土地建物の生前贈与です。

  1. 遺言書の作成は相続対策として「いま不動産の名義変更はしない」判断の代表例です。
  2. 死因贈与契約と仮登記は、少しお金を出して少し確実な手当をする例かもしれません。
  3. 家の持分を数年かけて少しずつ譲渡することもあります。典型的な贈与税対策です。
  4. 複雑さに耐えられるなら、贈与でなく民事信託による所有権移転登記も検討します。

失敗例でも、今後の生活(離婚の予定)を考慮すれば離婚後に財産分与を受けるようにできたはずですが検討はなかったようです。

不動産名義変更の計画では、登記費用の実費である登録免許税以外にも贈与税・不動産取得税などの税金の検討は不可欠です。
発生する税金は実費の大きな部分として、不動産譲渡を中止させるほどの影響があります。

3.方針と必要な手続きの決定

いつどのような理由で不動産の名義を変えるか決まったら、所有権移転登記を申請する土地建物について現在の不動産登記の状況を確認します。この作業は必須です。

不動産の登記に記録されている所有者の住所氏名その他土地建物に関する情報は、自動的にアップデートされるわけではないからです。所有者の転居や町名の変更などがあっても、そのデータは自動で反映されません。
法務局の登記相談でも、まず不動産の登記事項証明書などを取って現時点での登記情報を確認するよう指導されます。

所有権移転以外に必要な登記名義変更以外の手続き

土地や建物の登記の状況によっては、不動産を譲渡する人の住所や氏名を最新のものに書き換える申請(所有権登記名義人表示変更登記)や、残っている住宅ローンの登記を消す申請(抵当権抹消登記)が必要になるかもしれません。

特に所有権登記名義人表示変更登記が正しく準備できないと、本来おこないたい所有権移転登記を申請しても却下されることがあります(却下の前に申請を取り下げるよう指導はあります)。
一部の不動産に過去の抵当権の登記が残っていたり、持ち主の住所が書き換えられていない、ということは司法書士が関与する登記でもあります。

この点からも、土地や家の名義変更をしたい人が「所有権移転登記申請書と必要書類の見本」だけ探すことにはあまり意味がないといえます。
不動産名義変更に必要な作業の一部しかしていないからです。

4.必要書類の調達・作成

行う手続きが決まったら、対応する必要書類を揃えます。
贈与や売買、代物弁済などの契約締結・契約書作成もこれに含みます。

自分で所有権移転登記の申請をしたい人が関係者に適切な指示ができるとは限りません。
持分を共有する2人から不動産を売却してもらうのに、共有者の1人からしか印鑑証明書をもらっていないこともありました。
不動産を譲渡する人が登記済証(権利書)を持っていないことに気づかない=当然持っていると思い込んで他の必要書類を準備していた、というのは毎年ある相談事例です。

所有権移転登記で提出する登記済証(権利書)に決まった書式はありません。
持ち主側の土地建物関係書類のうち、どれが必要なのか相手も自分もわからない、というのもよくあるトラップです。
権利書がなければ不動産の名義変更はできないという人もいますがこれも違います。

ウェブで手に入る登記申請書の見本に書かれている添付書類は、あなたの不動産名義変更に必要かもしれないし不要かもしれません。
実は、別な必要書類があるかもしれません。

5.登記申請書の作成・提出

このコンテンツにたどり着いた多くの人が探していたのは、まさに所有権移転登記申請書の作り方だったかもしれませんね。

自分で所有権移転登記の手続きができるというウェブサイトの多くは、だいたいこの部分だけを説明しています。自分でやってたまたま成功できたからです。
この失敗例でも、登記は自分でできたそうです。

見かけ上整っている登記申請書を出してしまえば、不動産の名義は変わります。

6.税金の発生・納付・その他問題や紛争の顕在化

土地建物の譲渡・名義変更は不動産登記をきっかけに税務関係官署に知られます。
不動産取得税・贈与税・譲渡所得税などの納付義務が不動産の名義変更後に発生します。

失敗例で女性は、贈与税の申告を求められてから手続方針の誤りに気づきました。

百万円単位の贈与税を払う、と家の名義変更後に気づきました!

やむを得ず、この人は贈与による当初の所有権移転登記を抹消する登記をしました。
いったん、家の名義は元夫に戻ります。
離婚は成立していたので、あらためて財産分与を登記原因とする所有権移転登記の手続きをやりなおしました。最終的には家の名義変更を終え、贈与税の課税を免れることはできたのです。
以下の損害が発生しました。

この手順では、贈与での所有権移転登記で納めた登録免許税(課税価格合計2千万円の家なら40万円)は無駄になりました。
財産分与での所有権移転登記も自分でできたでしょうが、登録免許税は同額をもう一度払う必要があります。


生前贈与で家の名義変更後、債権者に訴えられた

別の例です。不動産登記の情報は他人のものでも見られます。
所有権移転登記申請、つまり不動産名義変更の事実は誰でも確認できるのです。

事業に失敗した親が、最後に残しておいた家を子に贈与すると決めました。
親が事業経営に失敗した点を除けば生前贈与でよくある家の名義変更です。

所有権移転登記の手続きはふつうにできます。その後、債権者が発見しました。
定期的にこの家の名義=不動産登記の状況をチェックしているのでしょう。

債権者は親子二人を被告として、所有権移転登記の抹消請求訴訟を起こしました。
家の名義を元に戻せ、という請求です。
この贈与は、親にお金を貸した債権者には迷惑だからです。

こうした不動産名義変更がもし可能なら、親は家などの財産を勝手に子に逃がせます。
債権者にしてみれば、債務者である親が自分の財産で借金を返してくれる可能性が遠ざかるからです(民法上は詐害行為といわれます)。

訴訟では当然、債権者の請求が認められました。
贈与での名義変更手続きの費用は、この例でも無駄になったのです。

これらが失敗した不動産名義変更の代償です。
いずれも当人たちの状況をよく相談で聞けば避けられたでしょう。
ただ、後者の事例は自分で家の名義変更をしたのではなく、登記申請は司法書士が受託していました。残念ですが、士業の中には言われた手続きだけやって依頼人に損害を与える人もいる、という例でもあります。

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自分で登記をする発想の暗部自分で手続き。うまくやる、つもりで…

人々が探すのは自分でする所有権移転登記の書式や必要書類、上記5.の情報です。
しかし不動産名義変更の失敗原因は、主に手続きの前、1.〜4.にあります。
名義変更後に税金その他の問題が発生するまで気づかないこともあります。

自分で(安く)登記をしてあげるよ、という罠

相続登記の手続きを自分でするという兄弟に必要書類を渡したら、当初の説明と違う登記をされたという相談も入るようになりました。
捨印を悪用したりろくに説明もせずに必要書類に署名捺印させれば、不正な不動産名義変更(土地や家を奪う手続き)は制度上、可能です。

相手が自分で手続きする=騙せる、という発想も

いらない土地建物を他人に売却したい人が適切な説明をせず、物件の売り逃げを企てる計画を止めさせたこともあります。
買主は当事務所に相談に来るまで、自分で不動産の名義変更をするつもりでした。

余計なことは言うな、と司法書士に言う宅建士それでも士業か?

売主は現役の宅地建物取引士で、自分が売買契約書に入れた買主不利な条項を買主には説明するな、と私(司法書士)に言ってきました。
買主が自分で登記の手続きをしたら、名義変更後も自分が不利な不動産売買をしたことに気づかなかったでしょう。

『家族内ドロボー』の可能性自分でする登記の不都合な真実

自分で不動産名義変更の手続きをしたい人の周りの関係者にとっては、登記を自分で申請されることは迷惑で危険な発想なのかもしれません。

家族内ドロボーという語は、弁護士・税理士である長谷川裕雅氏の著書の題名です。
家族という立場を使って家や預貯金などの財産を奪い、遺産相続をきっかけに表面化する紛争を指す、長谷川弁護士の造語です。
不動産名義変更の前後で司法書士など第三者のチェックがないという点で「登記を自分でする」という発想は不正や問題がある登記申請につながりやすい面を持っています。

その名義変更で、幸せになれそうですか?大げさですが肝心なのはそこです

このコンテンツでは、主に上記1.の(不動産の名義変更をしたくなった)状態を登記原因ごとに整理したあとで、主に2.〜4.(他の選択肢と必要書類その他の注意事項・費用)について説明しようとしています。
実際にはほとんど常に、個別に具体的な検討・相談を要します。

不動産の名義変更をしたい、と思ったらまず、適当なFPの事務所で相談を受けることをおすすめします。
その土地や家の名義変更が関係者にとって好ましい計画か、第三者を交えて検討してみてほしいのです。

土地や家の名義変更の前に考えることを説明したこのコンテンツが、そうした誰かへの相談のきっかけになればと思っています。

加えてこのコンテンツでは、不適切な所有権移転登記申請を予防する・不正な名義変更手続きをチェックする手段と必要性についても説明していきたいと考えています。

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参考文献自分で登記をしたい人・その悪用を防ぎたい人へ

名古屋市の司法書士・FPである当事務所は登記手続の受託とならんで、事前の相談と情報提供・適切な本人申請の支援に力を入れています。

不動産名義変更の前に土地建物・登記の調べ方

土地・住宅・マンションの現地や登記の調べ方の基本を一冊で解説しています。

必要な登記申請が決まったら

不動産の登記申請書・添付書類の書式から綴り方まで丁寧な説明があります。

身近な人から財産を守るために家の名義変更だけが問題ではありません

家族だからできてしまう、財産を奪う可能性。不動産だけではありません。

その他の書籍・情報土地建物の名義変更に関するもの


山林の名義変更に関する書籍を執筆しました

当事務所の司法書士は山林の登記・県外での不動産調査等に取り組んでいます。
平成30年春に刊行されたこの本には、土地を中心に相続財産の調査〜相続・贈与での名義変更まで自分でできるようにする情報と関連書籍の紹介を盛り込みました。

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