遺産分割調停申立事例(本文166〜168ページ)
概要
これは相続未登記問題について、数万円で可能な対策の一つです。
山林について、登記上の所有者が死亡している場合を考えます。その不動産を他人に譲渡するまえには、まず現在生きている相続人への『相続登記』を終えておく必要があります。
登記上の死亡者に法定相続人(例えば、子)が複数いる場合が問題です。
被相続人が遺言を残していない通常の場合、相続人全員の話し合いで遺産を相続する人を決める必要があります。この遺産分割協議で揉める・疎遠な相続人の合意が得られないために相続登記ができない林地は多々あります。
以上の状況下で家庭裁判所が関与して解決を目指す手続きが『遺産分割調停』です。当事務所で依頼を受けた事例を紹介します。
依頼当時の概況
- 不動産は中山間地域の宅地1筆。価格100万円以下
- 登記上の所有者は、依頼人の祖父
- 法定相続人のうち1名が同意しないため遺産分割協議が成立しない
- このため最初に依頼した司法書士が関与を打ち切り、相続登記未了になった
- 遺産分割協議が成立すれば、相続人からこの土地を買ってくれる人がいる
- 各相続人はいずれも他地域在住。積極的にこの土地を欲しい者はいない
- 依頼人はこの土地上にあった家屋の解体費用を負担した。解体費用は土地売却価格より多い
- とにかく相続登記までできるようにしてほしいが、土地の価格が安いので弁護士を頼むほどの費用はだせない
申立とその結論
当事務所で遺産分割調停の申立書類を作成し、依頼人本人が裁判所に出頭することを基本方針としました。弁護士を代理人にする申立ではありません。
申立書作成にあたり、家屋の解体費用(依頼人が相続不動産の管理について自己負担した費用)がすでに発生したことを説明しました。遺産分割協議に不同意な相続人がこの費用を負担していない点を、あえて申立書に記載しています。
この結果、不同意だった相続人に依頼人が代償を支払うことなく、無償で不動産全部を取得する審判が確定しました。言い換えると、妨害を排除して全面的に目的を達成しました。
調停期日にはほかの相続人が出席しなかったため、調停ではなく異議が出なければ確定する『審判』のかたちで裁判所の判断を得ることになりました。
審判書を添付書類として相続登記を終了後、買受人への売却が完了しました。
依頼の費用と効果
この遺産分割調停申立書類作成には、実費含めて10万円かかっていません。筆者は申立書類作成のみをおこない、依頼人は弁護士を代理人にせずに申立をおこなったためです。
遺産分割協議には(不当な要求や感情的な対立などで)同意が得られなくても、本件のように裁判手続きにかければ調停が成立することは多々あります。
遺産分割協議が成立しないために相続登記ができない、特に価値の高くない林地については遺産分割調停の本人申立が費用対効果の面で現実的、かつ有用だと考えます。
申立の詳細と審判書の内容(裁判所の判断)
依頼人の承諾を得て、当事務所ブログ『旅行書士雑記帳』に記載しました。