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職安その他の求人広告を信じて応募したが、内容が違う

質問

  私は公共職業安定所の求人をみてこの会社に応募し、採用されました。
 求人公開カードでは、正社員で月給20万円、社会保険完備と書いてありました。ですが働きはじめて最初の給料日になって、時給850円で給料が計算されていることに気づきました。社長に事情を尋ねると、「あなたはまだ見習い中だから。社会保険も、見習い期間が終わったら加入してあげる」と言われてしまいました。
 でも、いつまでが見習い期間なのかについては説明してもらえません。このまま働き続けていいのでしょうか?

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建前 求人広告の内容が労働契約の内容になるか否かには、賛否両論あります


 企業が従業員を募集する際に、職安(ハローワーク)の求人公開カードに記載したり求人情報誌やチラシに載せてある内容は、そのまま個々の従業員との労働契約の内容になるのでしょうか?

職業安定法5条の3第1項は、公共職業安定所および職業紹介業者、労働者の募集を行うおよび募集受託者ならびに労働者供給業者(「公共職業安定所等」)は、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者または供給される労働者に対し、「その者が従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」とし、同条2項は「求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所又は職業紹介業者に対して、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給業者に対し、それぞれ、求職者又は供給さ労働者が従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」としています。

 ただしこの規定は、あくまで『求人の募集をする雇い主』と『雇い主のために、求人情報を労働者に提供する職安等』との関係を定めたものであって、雇い主と労働者との関係を定めたものではありません。

申し込みの誘引

 求人をする雇い主がたとえば職安に求人の申し込みをするのは、不特定多数の労働者に求人情報を公開して自分のところへの応募を誘うという意味で『申し込みの誘引』と言われています。これをきっかけに個々の労働者が求人に応募するのが契約の申し込みということになるので、労働条件は具体的に労働者が雇い主に応募した時点で決まると考えなければいけません。

公開されている求人情報の内容は申し込みのきっかけに過ぎず、自動的に労働契約の内容になるものではありません。

 では求人情報にはいい条件を並べておいて、個々の応募ではそれを下回る条件に応じる者だけを採用する…ということが雇い主側に許されたら、職安法第5条の3の規定を設けた意味がなくなってしまいますね。

 裁判例では「公共職業安定所の紹介により成立した労働契約の内容は、当事者間において求人票記載の労働条件を明確に変更し、これと異なる合意をする等特段の事情のない限り、求人票記載の労働条件のとおり定められたものと解すべきである」とするものもあります。(千代田工業事件・大阪地決昭58.10.19)

 労働基準法第15条第1項では雇い主は雇い入れの際に労働者に対して、賃金等の重要な労働条件を明示し、特に重要なものは書面に記載して労働者に交付するよう定めてもいますから、雇い入れの時点で特に説明がない場合には労働者としては求人公開カード記載の条件で採用されたと考えるしかなくなってしまうでしょう。

 職安の求人公開カードと同様に、求人情報誌やチラシなどの広告で求人を行おうとする雇い主には「当該募集に応じようとする労働者に誤解を生じさせることのないように平易な表現を用いる等その的確な表示に努めなければならない」(職業安定法42条1項)と規定はあるものの、決定的なものではありません。

 なお、こうした求人情報を巡る相談では、中小企業では特に賃金の額と、正社員として雇用されたのか否か、あるいは雇い主が一方的に宣言する見習い期間の扱いをめぐって相談になることが多いです。基本的には契約の当事者である労働者の合意がない状態で、条件を一方的に悪化させることは労働契約のみならずどんな契約でもできません。

ただし、求人情報記載の額より減額された賃金に対してなんの不満も述べずに働き続けた場合など、判明した条件に対して異議を述べないで働き続けると、労働者はその条件を認めたはずだという主張が雇い主側から出てくることがあります。契約条件の是正を求めるにせよ、もっとましな勤め先を探すにせよ、早期に対応することが肝心です。また、職安の求人公開カードは長期に保存されているものではありませんし、求人情報誌は一般に過去の分の広告を見せてくれることがないので、自分が応募した際の求人情報はかならず保存しておきましょう。

 また、あえて求人公開カード等に記載の条件に基づいて法的な請求をかける場合には、賃金額に上限と下限があるならばその下限によって請求するのであれば無理がないでしょう。
 なお、たとえ見習いや試用期間と言われていても、雇用保険や健康保険などの社会保険には雇い入れの最初から加入することになっています。これは、求人情報の内容とはまったく関係ありません。

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本音 慎重に条件を確認し、速やかにその職場から逃げましょう

 職安の求人票の記載事項が労働契約の内容になり得るかについては上記のとおり両論あり、必ずしも決め手はありません。特に賃金部分について、会社側が身勝手な理由を主張して求人票記載の金額より低い金額しか支払わないことはよくあります。このような会社の場合、労働者の雇い入れにあたって労働契約書や雇入通知書その他労働条件を明らかにする書面を労働者に交付しないことも多く、労働者はわけもわからないままその条件での就労を余儀なくされます。

 つまりその会社、まともじゃないのです。そう判定して差しつかえありません。

 ですのでこうした相談での唯一の正解は、そうした会社に在職することを続けないこと、そうでなければ泣き寝入りを覚悟することだ、としか言いようがありません。

 ただ、何かの間違いがあって誤った労働条件で処遇されているということも一応考えられますから、建前の回答にあるような小難しいことは一切口にせずそっと管理者に確認をとってみて、その反応が悪ければその会社から逃げ出すなり泣き寝入りする方向でそれぞれ覚悟するしかありません。
 もっとも好ましくないのは、求人票記載の賃金より低い会社が提示する条件で漫然と長期間就労を続けることであって、この場合もし後日訴訟などを起こしても会社側から『原告労働者は長期にわたって、会社が支給する賃金になんの異議もとなえず勤務を続けてきた。したがって労働契約のうち賃金額に関しては、原告労働者と被告会社は黙示のうちに、会社支給の賃金額によるという内容で労働条件を決定している』などという反論が出てきかねません。会社が一方的に決めた労働条件に対し、黙示の承諾があったと言われることは、後で裁判手続きを利用する際に覚悟して反論を練っておいたほうがよいですね。

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Last Updated :2018-10-04  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.