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提案事例訴訟と債権回収の問題

簡単な机上調査の事例債権回収の問題

お尋ね:少額訴訟を起こして欠席判決を得ました。相手の会社は地元の酒屋さんで、今も営業していますが支払いはしてくれません。どうしたらいいですか?

10〜20万円の請求をする訴訟では、こちらが訴訟を起こしても欠席、全面勝訴の判決(欠席判決)が取れても、自分で支払ってくれる様子はない、ということがときどきあります。いわば、相手に徹底的に無視された方からのお尋ねです。

この事例では、約一ヶ月分の賃金として20万円、ならびに遅延損害金を請求して勝訴判決を得ています。

提案:預金口座を調べて少額訴訟債権執行を申し立てます。その前に訴訟費用額確定処分の申立をして、提訴の際の実費も回収しましょう

少額訴訟の訴状作成時に、ご依頼の際には提訴の際の請求額の5%として1万円をお支払いただくことにしました。勝訴判決を得た時点では、報酬の支払いの必要はありません。その後お金の支払いがあったときに、その額の14%を申し受けるという条件で作業に入っています。別事件として少額訴訟債権執行の申立を新たにおこなう時点で、請求額の3%として6千円をお支払いいただいています。

説明(平成26年4月までの扱いについて)

当事務所に労働関係の裁判書類作成をご依頼いただく場合、料金は書類作成枚数のほか、請求額に対する最大6%+回収額に対する最大14%の額を上限とする特約を設けるのが一般的です。

事案が単純だったり請求額が大きい場合は、請求額に対する割合を3%まで下げることもあります。この事例はシンプルに一ヶ月分の賃金の支払いを求める少額訴訟の作成をすればよいと考えられたため、作業開始の際の料金を請求額の5%、1万円として裁判書類作成作業を開始しました。4枚ほどの訴状を作って出したところ、相手の欠席により判決がとれたのです。

欠席判決を得た後も支払いはありませんでしたので、少額訴訟債権執行が可能か検討したのですが、お客さまはこの申立に必要な売掛金や銀行預金等の財産(債権)の所在をご存じないということだったのでまず机上で調査を試みています。

この酒屋さんは有限会社でした。当事務所で加入している信用情報(tsr-van2)を用い、まず会社名で検索をかけたところ、この会社の預金口座と支店の情報が3件取れました。できれば有力な1件にしぼりたいので、さらに調査することにします。

提訴の際に入手してあったこの会社の登記事項証明書から読み取れる他の取締役たちの人名で次々にtsr-van2の検索をおこない、社長の娘が代表者である別会社の情報が取れました。これは、あくまで別の会社の預金口座の情報ですが、同じ銀行を利用していることがわかりましたのでこの銀行をメインバンクと推定します。検索1件あたりの実費は1200円です。

さらに社長の住所の不動産の登記情報を検索したところ、社長個人名義で自宅に抵当権を設定している信用保証会社と会社の取引銀行とが同じ系列であることがわかりました。

これらのことから、信用情報から取得できた口座のうち最も重要であると思われるものを特定し、その銀行を第三債務者として少額訴訟債権執行を申し立てることとしました。調査期間中に訴訟費用額確定処分の申立も済んでいますので、少額訴訟の判決と訴訟費用額確定処分とを債務名義として申立をおこなったところ、一回で満額の回収ができました。

これは机上調査の事例です。実際には現地調査を試みることもあります。会社や個人の不動産について閉鎖登記簿を閲覧し、過去に取引があった銀行とその支店を検索するのは一般的な手法です。公開情報のみを用いていますのでこうした調査に特別な資格は必要ありませんが、経験や根気があると役に立ちます。

追記

平成26年5月から、上記の説明のうち6%の部分を標準5%に、14%の部分を標準15%に読み替える変更を行っています。

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複数回の債権差押申立を反復した事例債権回収の問題

お尋ね:賃金請求訴訟で勝訴判決を取ったのですが、相手からの支払いはありません。この会社は不動産は賃借しており、預金口座がどこにあるかもわかりません。

財産が何もない会社からお金を取る、というのは常に難しいものです。この例では、事務所は賃貸物件、事業はイベントへの人材派遣、つまり社長と電話があれば仕事ができてしまう、というタイプの会社で、確かに財産があることは期待できない、零細すぎて調査会社から信用情報が入手できるわけでもない、そうしたお尋ねです。

会社の営業が止まったようでも、少し観察を続けてみましょう

この提案が有効かどうかは、その会社の性質によります。すぐに諦めろ、という結論を出すことはありませんが、お客さまに相当な忍耐が必要です。

この事例では約4ヶ月の給料として100万円の請求を行い、全額の認容判決を得ていました。訴状作成から裁判書類作成作業を始めたこの契約で、請求額の4%として4万円をお支払いいただき、訴状と複数件の準備書面作成を経て勝訴判決を得ています。勝訴判決を得ただけの時点では、特に報酬支払いの必要はありません。

債権差押命令申立については申立ごとに別の事件となりますので、1回の申立のつど請求額の3%として3万円程度をお支払いいただくことにしました。

実際にお金の支払いがあったつど、支払い額の14%とこれまでに書類を作成した枚数で計算した料金とを比較し、安い方をお支払いいただきながら、債権差押申立書類作成を反復しました。

最終的に、1年弱のあいだに3回の債権差押命令申立を経て回収を終えました。書類作成の総費用としては、25万円程度となりました。

説明

会社の営業状況が不明、財産も不明とはいえ、勝訴判決をとっている、つまり直ちに強制執行ができる状態にはありますので、現地調査やウェブサイト上に表示されている求人や、イベントの告知から事業活動がわかった都度、債権差押命令の申立を行うことを目指して観察を続けます。

イベントの主催者、つまり相手方会社に対してお金を支払う者がわかったら、イベント開催直後など適切なタイミングを狙って債権差押命令申立を行うことを満額回収まで繰り返しました。

債権差押命令申立は、回収が済むまで複数回繰り返して申立をおこなってもかまいません。同じ債務者に対して、第三債務者を次々に変えて債権差押命令の申立をおこなうことも当然かまいません。

ある店舗を営む会社について、銀行(預金)・クレジットカード会社(クレジットカード利用に基づく売り上げ代金)・売掛金(個人客よりは、団体等に納品したような場合)に逐次、あるいは同時に債権差押をかける、そうしたことも考えなければなりません。司法書士は地方裁判所における手続きである債権差押命令申立に関する法律相談ができない=つまり特定の方針の可否を説明したり推薦できないので、お客さまがかなり苦しんで決定されることが多いです。

この事例では書類作成のみを行い、最終的には請求額(お客さまにとっては未払額)の9割以上をお手元に残して終了することができました。勝訴判決と強制執行による回収ですので遅延損害金だけで20万円程度発生しており、これが当事務所への報酬支払いによるコストロスを大部分穴埋めしたためです。

実際にはこれよりよいことも悪いこともあります。当事務所で簡易裁判所における訴訟代理人になった場合は成功報酬の上限を25%とすることがあるため、この場合はお客さまの手元に残る金額がもう少し減ります。

追記

平成26年から、上記の説明のうち6%の部分を標準5%に、14%の部分を標準15%に読み替えるほか、同じ手続きを反復する場合に請求額の1〜3%程度を申し受ける変更を行っています。

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緊急の債権仮差押申立例債権回収の問題

お尋ね:退職後、最後の一ヶ月の給料が未払になりました。契約書やタイムカードは持ち出しましたが、社長は来月、店舗を他の会社に譲って隠居すると言い出しました!

会社がその事業の大部分を譲渡して休眠する、というのは実に困ります。廃業するわけでも破産するわけでもないので、未払賃金立替払い事業の適用を受けられないからです。迅速に、かつ実力でなんとかしないと泣き寝入りを強いられる、そうしたお尋ねです。

提案:急行料金はかかりますが、急いで代理人として債権仮差押命令を申し立てます。

この事例で未払いなのは一ヶ月分の給料、30万円です。相談の結果、事業譲渡前に残っている売掛金の入金が7日後にあることがわかりました。

そこで、当事務所で訴訟代理する場合の通常の着手金である請求額の7%、2万1千円に、急行料金3万円を加えて5万1千円をお支払いいただき、筆者を代理人として債権仮差押申立準備に入ります。支払いがあった場合は、成功報酬として最大17%の金額を支払っていただく、という契約です。

説明

当事務所では、ご依頼から7日以内に何らかの申立をおこなう場合には通常の料金に加えて3万円の急行料金をお支払いいただきます。ささやかながら、お客さまに厳しい料金体系かもしれません。ご依頼から3日以内の場合は10万円の特急料金を設定しており、急行料金については年に一度はご利用があります。

この事例はまさに時間をお金で買ったものです。事業を譲渡して休眠状態に入られれば会社に財産がなくなりますので、売掛金が発生しているうちに仮差押をかける必要があるし、仮差押をかけずに訴訟をやっても無駄に終わると考えました。

仮差押申立の場合は申立書提出の当日に仮差押の決定がでることもあり、頑張って準備すれば方針決定から1週間後の売掛金入金でもストップをかけられます。請求額が140万円以下だったこともあり、申立を迅速におこなうために当事務所で代理することと急行料金を要することを提案、了承を得ました。

方針決定後、お客さまには相当な負担を強いたかもしれません。証拠書類を調達したり陳述書作成の打ち合わせが深夜に及ぶことは、緊急の事案では通常あります。

ご依頼から3日後の午後に、裁判所に申立書提出、同日中に、法務局に6万円の担保を供託しました。供託書は翌朝裁判所に持参、ご依頼から4日後に債権仮差押決定を受け、速達で県外の第三債務者に送達されたのが5日後となり、売掛金の仮差押は成功となりました。

この後の展開はさまざまです。順当に訴訟で勝って本執行にを経て回収するものもあれば、裁判外で和解して申立を取り下げ、別にお金を払ってもらうものもありますし、仮差押に成功しても訴訟中に相手に破産されて、すべての努力と実費がムダになることもあります。

この事案では会社に借金があまりなさそうだと判断できた(つまり、破産申立はないと判断できた)ので仮差押の申立を強く勧めたのですが、破産の可能性が高ければ躊躇したと思います。

追記

平成25年から、上記の説明のうち7%の部分を上限10%に、17%の部分を上限20%に読み替える変更を行っています。

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破産による手続き失敗例債権回収の問題

お尋ね:勝訴判決は取れましたが、会社も社長も破産を申し立てたという連絡が届きました

破産の申立により、進行中の訴訟や仮差押・差押の申立は停まってしまいます。その後、未払賃金などの権利があればその金額と優先権に応じて破産手続きの中で会社財産の分配がなされる…という建前ではあるものの、会社に財産がなければ分配もへったくれもない、そうしたかなり不運な方からのお尋ねです。

提案:こればかりはほぼどうしようもありませんが、未払い賃金立て替え払いが受けられます

この提案自体は、労働相談を通じてご事情を聞くことで可能です。

すでに裁判書類作成等のご依頼をお受けしている場合は、お客さまも未払のお金が支払われず、実費や当事務所にそれまで支払ったお金が無駄になる代わりに、当事務所にはその後の報酬の支払いを要しない、というわけでみんな損をして終わることになります。

説明

会社をはじめとする法人に対する債権回収において、法人側は破産という最終兵器を持っています。

破産してしまえばすべての裁判手続きを止めることができ、会社に財産がなければ労働者はじめ債権者への支払い義務を果たすことなく、その法人が消滅して破産手続きが終わります。あとは経営者個人が保証した債権をどうするか、を考えていればよく、それも経営者個人が法人とセットで破産すれば踏み倒せるわけです。

こうした場合に労働者ができることはそう多くありません。

順当なのは国による、未払賃金立替払い事業の適用を受けることです。これを正しく適用されるために、未払の賃金額を確定するという意味であえて破産間際の会社に訴訟を起こす、ということはあります。破産した会社の社長や管財人が、つねに労働者の正確な未払賃金を把握できているわけではありません。

逆に、会社に破産してもらって未払賃金立替払い事業の適用を受けることを狙って、会社の信用状況が傷つくような行動をあえて取る、ということも理論上あります。

どうあっても破産手続きのなかで何かしてみたい、という方もまれにいらっしゃいます。

そうした方には、まず破産債権者として破産申立書を残らず謄写(コピー)していただき、その書類を検討してなにか不審点が見いだせれば管財人に対する通知書を作成したり、個人が破産者であれば免責を不可とする意見書、免責許可決定に対する即時抗告申立書を作成します。当事務所ではそうした書類作成の受託事例もありますが、それで免責を阻止できたことは残念ながらありません。

ただし、労働者が法人ではなく個人に雇われていて、その人に対する未払の給料の請求権を持っている場合には、事業主である個人の破産により支払い義務は免責されません。個人事業主という点で労務管理が適切になされておらず、労働者になるのか下請けになるのかわからない、ということもありますから、この場合も労働者として賃金の請求権を持っていることを明らかにするために、あえて訴訟を起こしておく、ということになるかもしれません。

当事務所で労働者側について個人事業主を相手取っているうちに破産された例はまだありませんが、個人事業主との未払賃金の支払いに関する和解交渉では、なるべくその未払い金として『賃金』であることを明確にしたり、破産にともなって免責されるお金(労働者が事業主に貸したり立て替えているお金など)から先に回収するようにしています。

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付加金給付判決事例

お尋ね:残業代の未払いについて、付加金が本当に取れた事例はありますか?

労働基準法第114条の付加金は、時間外労働割増賃金等の不払いに対し、使用者にその不払い額と同額の支払いを裁判所が命じうる、というものです。つまり未払額の2倍のお金が取れるかもしれない、そう思ってしまった方々からのお尋ねです。

提案:はい。でも3年ほどかかりました

この場合、訴訟の提起から判決の確定までひたすら書類をつくり続けることになります。当初の請求額の上限6%の報酬で裁判書類の作成は開始するのですが、付加金を狙って訴訟を起こす場合には書類作成枚数・打ち合わせ時間・出張日当の全額をお支払いいただき、料金の上限を設けないこともあります。

説明

証拠も十分、会社の支払い能力も十分、という残業代不払いの事例です。会社側に弁護士が着くことは通常あることでして、特に難しいものではありません。

ただ一つ、この事案が他と違っていたのは、会社側が異常なまでに和解を嫌ったことです。

その結果、地裁で付加金給付判決→高裁で控訴棄却(第一審の判決の維持)→最高裁で上告・上告受理申立の棄却、という経過を経て、本当に付加金給付判決が確定してしまいました。

この間、当事務所では文案を要するものだけで延べ十数点、厚さで十センチ超の書類をつくり、複数回の泊まりがけの打ち合わせとその何倍かの回数、日帰りの出張を設定する、ということになりました。ご依頼から判決確定まで、3年弱を要しています。相手が徹底的に争った場合の所要期間としては、そう長くも短くもない、と考えなければなりません。

筆者の意見として、付加金は狙って取ろうとしたり、それを煽ったりするような考え方にはまったく同意できません。

ただ、よほどご意志の強い方がそのお考えを聞かせていただいた場合には、それに納得して支援してしまう、ということもあります。そうでもないと、三年間戦い続ける、ということはなかなかできません。

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Last Updated : 2014-05-08  Copyright © 2013 Shintaro Suzuki Scrivener of Law. All Rights Reserved.