民事訴訟の記録閲覧閲覧方法・準備・閲覧できる書類とその見方
誰でもできる傍聴のしおり民事訴訟の傍聴・見学と記録閲覧
訴訟の記録も、誰でも閲覧できます事件番号・当事者名が必要です
ここまでのコンテンツと参考文献とで、裁判所に行き民事訴訟を傍聴して帰ってくるには十分な説明になっていると思います。参考になる事件がたまたま見つかってしまう幸運な人もいるかもしれません。
筆者も実は、依頼人を連れて傍聴に行った証拠調べで判決が気になる事件がいくつかあります。
そうした訴訟の内容を詳しく知りたい場合には、訴訟の記録を閲覧してしまえばよいのです。民事訴訟が公開であることと関連して、訴訟で出される訴状や答弁書・準備書面といった主張活動に関する書類や、証拠の写し、判決や和解の内容、送達に関する記録は、誰でも閲覧できます。
一般の人が閲覧できるのは『訴訟』つまり通常訴訟や少額訴訟の記録だけです。民事調停や労働審判の記録は第三者は閲覧できません。
訴訟の記録であれば現在進行中の事件もすでに終結した事件の記録も閲覧できますが、訴訟の終結から5年経つと判決や和解調書以外の記録は廃棄されることになっています。以下で閲覧の手順を説明します。
閲覧申請に必要なデータ・申請場所ネットだけで調べるのはほぼ無理です
まず、傍聴の際に調べた開廷表から、閲覧したい事件の事件番号、原告と被告の氏名をメモしておいてください。これが不明だと閲覧の申請がかけられません。以下では、係属中の事件の記録をその裁判所で閲覧することを想定しています。
つぎに、大きな裁判所であれば『記録係』、小さな裁判所であれば書記官室(訴状等の受付)に行って、訴訟記録の閲覧をしたいと告げてください。受付にいる人に聞いてみてもかまいません。すでに終了した事件と進行中の事件とで、閲覧の申請を受け付ける部署が違うこともあります。その際には担当者の指示に従ってください。
閲覧申請に要する事件番号や当事者名、ひいては訴訟歴の有無を検索すること、特にこれらをインターネットだけで調べきることはほぼ無理です。
特に東京地裁での訴訟記録閲覧について
東京地方裁判所だけは、申請した当日に記録が閲覧できないことがあります。
東京地裁ウェブサイトの説明へ
要約すると、当日の午前中に申請した訴訟記録が同日午後に閲覧できることになっています。係属中の事件についてはこれより早い(筆者の経験では、申請から記録が出るまでに1時間かかることはない)のですが、特に終結した訴訟の記録を閲覧したい場合、上記リンク先の案内どおりの対応になると考えて準備してください。
東京地裁以外の地裁本庁では、大阪・名古屋地裁のような大規模庁でも閲覧申請の当日に記録が閲覧できています。
用意するもの収入印紙・認印・免許証です
閲覧の申請には、手数料として150円ぶんの収入印紙、認印、身分証明書になる資料が必要です。
閲覧申請書の書式は『法廷傍聴に行こう』資料17のとおりで、裁判所に用意されているものを使います。
書式中の『閲覧等の目的』はとりあえず『調査および研究』、『閲覧等の部分』は『全部』、『所要見込み時間』は、かんたんな事件なら『30分』と書いてもらえればよいでしょう。
閲覧申請書を出すと、少し待たされたあとでファイルに綴られた記録一式を渡されます。
閲覧する場所は裁判所によって実にさまざまで、東京地方裁判所のように専用の閲覧室で何人もの人が閲覧しているところもあれば、事件を担当する書記官室の片隅で閲覧する裁判所もあります。政令指定都市にある簡易裁判所でも、閲覧の設備は結構貧弱ですが、堂々と閲覧していればよいでしょう。
閲覧の申請は、午前中なら9時以降、午後は4時ごろまでに行うようにしてください。正午から13時までの1時間は受付されません。あくまでも閲覧をするだけなので、閲覧席で携帯電話をつかったり撮影したり熱心に書き取ったりしてはいけません。そっとメモを取る程度ならかまわないようです。
訴訟記録の閲覧で見られる書類
訴状・答弁書・準備書面・証拠説明書
本人訴訟を考えている人なら、訴訟代理人(弁護士)がついている事案の訴訟記録を閲覧することで、彼らがどのように書類を書いているのかを知ることができます。
ただし、代理人のレベルも玉石混淆なのでそのまま真似たり信じたりするのは危険です。まさに自己責任でお願いします。
訴状や答弁書を閲覧するまで、目的の訴訟に訴訟代理人が関与したかどうかわからないこともあるでしょう。東京地裁・大阪地裁では開廷表に代理人の有無が表示されなくなったため、傍聴しなければ代理人がついているかどうかわからなくなりました。
対立する相手に代理人が選任されたかどうかをいち早く知るために、本人訴訟の相談として訴訟記録の閲覧をかけることもあります。訴訟代理人がついているかどうかは、訴状・答弁書(および、それ以降の準備書面や証拠説明書)の当事者の欄に代理人の表示があり職印を押してあるかどうか、訴訟委任状が訴訟記録に綴られているかどうかでわかります。
陳述書
証拠調べが行われた訴訟では、尋問に先だって尋問される人(証人あるいは原告・被告本人)の陳述書が提出されるのが一般的です。これも、他の証拠書類と一緒に閲覧できます。
代理人がついていれば実質的には代理人が作成することが多いので、どんな風に書いたらいいのか悩んでいる人には参考になるでしょう。
陳述書も品質は玉石混淆でして、反対尋問をくらって炎上する危険な陳述書、だらだら長いだけで役に立っていない陳述書、適当に作ったことが明らかに伝わってくる陳述書も結構あります。あくまでも雰囲気を参考にするにとどめるのが上策です。
問題がある陳述書の代表例として、準備書面の文章の各部がコピペしてある、というものがあります。訴訟代理人がその事件に傾ける努力の程度を示すものとして、見比べてみるといいかもしれません。ただし、一度だけ裁判所から『陳述書は必要だと思うなら出してほしい。先に出した準備書面をコピーしたものでもいい』と指示を受けた依頼人を知っています。ひょっとしたら手抜きしたわけではなく、裁判所の指示に従っただけかもしれません。
上記各書類に対する、裁判所によるチェック
当事者が訴訟で提出した書類は、当然ながら裁判官が中を見ます。見るだけではなく鉛筆や蛍光ペンでチェックしたり、短いコメントが入っていることもあります。
裁判官が原告被告の訴訟活動の何に注目しているのかを早期に推測する貴重な手がかりになりますが、常に見られるものではありません。むしろ、チェックがあるほうがまれだと思います。
判決正本あるいは和解調書
その訴訟がいつ、どう終わったのか、は当然読み取れます。
いわゆる秘密条項付きの和解(当事者は和解の内容を他人に言ってはならない、という条項がある和解)でも、その条項を記した和解調書はまるごと閲覧できてしまいます。事件番号と当事者名がわかっていて記録の閲覧ができる人には秘密もなにもない、ということになります。こうした覗き見を避けたいなら、裁判外で和解して訴訟を取り下げさせるしかありません。
裁判例の要旨と事件番号だけがウェブサイトや雑誌で公開されていて、判決の詳細を見てみたいというような場合もあるかもしれませんね。こうした閲覧も可能です。
和解調書は判決書とちがい、和解の成立に至る裁判所の判断は示されておらず合意の内容だけが読み取れますが、和解金(解決金)を受け取る人の預金口座が書かれていることがあります。和解金を受け取る人にお金を貸しているような場合は、訴訟とその記録をチェックして預金口座を把握しておく、あるいは和解金の請求権に債権仮差押をかけるなどの活用法が考えられます。
ご自分の訴訟を担当している裁判官に興味(または、不信感)がある場合、判例検索サービスを使って裁判官の名前で裁判例を検索し事件番号を把握して、その判決全文と訴訟記録を閲覧し、尋問における態度や判決所載の論理展開(の、強引さ)を読み解く、ということもあります。
相手が同じ会社の場合の、その他証拠書類
たまたま自分が訴えようとしている会社が別の労働者や債権者からすでに提訴されており、その際に会社側からなにか証拠書類が出ていることがあります。
一般の閲覧者はこうした書類をコピーして帰ることはできませんが、書類が存在していることは明らかであるため、文書提出命令の申立に適する(そうした文書が存在しないというウソが会社側から出せない)ということになります。
口頭弁論調書・弁論準備手続調書
口頭弁論または弁論準備の期日が開かれた日、出席当事者、裁判所がなにか質問や指示を出した場合にはその要旨がごくごく簡単に書かれています。発言が一字一句正確に書かれているわけではありません。
同じ相手を訴えようとしている場合には、その相手が先行する他の訴訟では裁判所に出頭してくるタイプの人だったのかを確認するために閲覧します。
地方裁判所で証人尋問または当事者尋問を行い、判決で終結した訴訟(尋問があった期日以降何回かの期日を経て和解で終わった訴訟を含む)では尋問の内容もまるごと記録に残っていますので、必要に応じて当事者が自分で閲覧したり謄写することもあります。
筆者の事務所では本人訴訟の相談をしていて、特に訴訟の途中からご依頼を受ける方(原告または被告)から「裁判所で言われたことの意味がわからない」と言われたり、依頼人の説明自体がはっきりしない場合に筆者自身が口頭弁論調書を閲覧することが時折あります。
期日において欠席判決が出たり和解が成立した場合には、『第1回口頭弁論調書(判決)』『第○回弁論準備手続調書(和解)』といった題名でこの書類が作られます。
民事調停でも期日ごとに調書が作成されており、当事者なら謄写してくることができます。訴訟と比べると、期日ごとの記録がやや詳細に作成されている印象があります。調停委員のメモ等は別に作られているのでしょうが、閲覧・謄写ともできません。
送達の状況を記録した書類群
送達報告書・送達に関する上申書・予納郵便切手を保管する封筒
これも、同じ人または会社を訴える事案で参考にします。
その相手に書類がどのようにして届くのか(昼間でも受け取るのか、不在でいったん持ち戻りされるのか、所在不明なのか、本人が受け取るのか等々)が読み取れます。
特別送達の送達報告書からは、転居先・同居人や勤務先まで読み取れることもあり、相手の所在を探索する時に役に立つことがあります。
閲覧申請書閲覧申請者の個人情報も閲覧できます
裁判所で訴訟記録の閲覧を申請すると、閲覧後にその申請書自体も同じ訴訟記録に綴られます。
まったく無関係な訴訟の記録を閲覧するならどうだっていいのですが、たとえば労働訴訟で先行して同じ会社を訴えている人の訴訟記録を閲覧すると、間違いなく『閲覧したことの記録』が裁判所に残ることになります。
会社の担当者も、その気になれば当事者として記録を閲覧できますから、これではうっかり閲覧できないですね。
もっとも、もし同行してくれるご友人等がいればその人の名前で閲覧申請してもらって、一緒に閲覧してしまうという手が多くの裁判所で使えるので、単純に閲覧申請すると申請書が保存される、とだけ覚えておけばよいでしょう。
検索エンジン・外部リンクから直接来られた方へ
このページは民事訴訟の傍聴のしかたを説明したコンテンツの一部で、民事訴訟に関する訴訟記録の閲覧の方法を説明したものです。(目次へ)
傍聴と記録の閲覧についての参考文献は、次のものをおすすめしています。
参考文献
よくある質問刑事関係の手続の説明はありません
『訴訟』の記録について
裁判所でやっている営みがすべて『訴訟』だと考えてはいけません。
裁判所でおこなう民事紛争解決のための手続きには訴訟のほかに、民事調停・強制執行・破産などなどさまざまな『訴訟』以外の手続きがあります。
第三者が傍聴できたり自由に記録を閲覧できるのは、最終的には判決というかたちで裁判所の判断を示すことになっている『訴訟』という手続きだけです。
訴訟以外のほとんどの手続きは、実際のところ第三者がその手続きが始まっていること・終わったことを知ることさえできません。倒産関係などごく一部の手続きの開始や終了が官報に告示される程度です。
このコンテンツでも『訴訟』という語を『裁判所でする手続き全般』ではなく、『通常訴訟または少額訴訟』の意味で使っています。このページで閲覧方法を説明しているのは、件数も種類もたくさんある裁判手続きのなかの一部である『訴訟』の記録の閲覧方法で、さらに民事訴訟に関するものだけだと考えてください。
ある企業・個人が訴訟に関与したことを正確に調べる方法はあるか
ありません。
過去の訴訟、現在の訴訟とも同様です。
事件番号・当事者名とも不明な場合、裁判所に聞いて探してもらうことはできません。
裁判例として裁判所ウェブサイトや判例雑誌に掲載されるものは、ごくごく一部に限られます。
ある会社や人について、訴訟を起こしたり起こされたことの履歴を網羅的に検索する方法は、少なくとも裁判所外の人には開放されていません。
当事務所では10年前から毎年一定時期に名古屋地裁・高裁・簡裁で開廷表調査を行っています。その時期に開廷表に掲載された労働関係事件について、記録の閲覧に要する事件名・当事者名・代理人名・事件番号のデータを保持しています。
そうした物好きが他にいないかぎり、当事者の協力なくして他人が過去の訴訟の記録にたどり着くのはまず無理です。
※おなじようなことをしている方は東京・大阪・名古屋などの大規模庁で見かけます。
そうした調査をする人の募集も見かけたことがあります。
人を使って調べたら、というのは時期と裁判所を限定すれば、冗談ではないかもしれません。
現時点で進行中の訴訟の有無だけでも調べられないか
上記のような人海戦術で挑戦するしかありません。
訴訟が係属している裁判所だけはわかっている場合、1〜2ヶ月毎日その裁判所に通って開廷表をチェックし続ければ発見できる可能性があります。口頭弁論期日が開かれる場合は、その間隔が1ヶ月〜1ヶ月半くらいごとであるからです。
この方針をとった場合でも、弁論準備期日について開廷表に記載しないタイプの裁判所では発見できません。
誰か他に物好きな人が訴訟をウォッチしており、第一回期日・証拠調べ(証人や当事者の尋問)・判決言い渡しの日がブログ等から読み取れる場合は、その日に裁判所に行ってみることはおすすめできます。これらの期日は口頭弁論期日として必ず公開され、開廷表にも記載されます。
断片的な記録でもいいから手に入らないか
財界展望新社の月刊誌『ZAITEN』に平成30年時点で『東京地裁開廷情報ピックアップ』という記事が連載されています。これは概ね一ヶ月前(8月発売の9月号なら、6月中旬から7月上旬まで)の東京地方裁判所の民事訴訟の開廷表の一部を抜粋して掲載したものです。
掲載されているのは1ヶ月で約100件程度なので、係属している訴訟のごくごく一部です。掲載の傾向としては、大企業や著名人・有名であるか報道の対象になりそうな法人を原告または被告とする民事訴訟について、開廷日・事件番号・事件名・当事者名が列挙されています。この雑誌を国会図書館などで閲覧することで、ある程度過去の記録も調べられる可能性が少しだけ残っています。
このほか、有料制のサービスでこうした開廷情報を閲覧できるものができてきましたが、筆者自身は利用していません。基本的にはこうしたサービスで入手できる情報は、東京地裁本庁(今後サービスが拡大するとしても、大規模庁)のごく一部の訴訟にとどまると考えます。(本項、2018.8.1加筆)
ある訴訟代理人が関わった訴訟について調べる方法はあるか
ほぼ無理です。当事者そのものを調べるより困難です。
運がよければ、有料の判例検索サービスに載せられている裁判例で訴訟代理人の名前が消されていない場合に発見することができる程度です。
東京・大阪などの大規模庁を中心に、開廷表にも訴訟代理人の名前は掲載されなくなりました。このため、当日の開廷表をチェックして見つけ出すこともできなくなっています。名古屋地裁・高裁の開廷表には令和元年時点でまだ代理人弁護士名の掲載があり、当事務所では労働事件について若干のデータを保持しています。
個人情報の開示や情報公開制度との関係は
訴訟の記録の閲覧でこれらの制度が使えるわけではありません。
民事訴訟法(91条)その他各種の申立に関する法律ごとに記録の閲覧に関する条文があり、それにしたがって記録を閲覧・謄写することになります。
このため、仮に自分が当事者になった訴訟でも、事件終結後に相手と事件番号を忘れてしまえば記録の閲覧ができないことになります。自分がいま訴えられているか調べたい、という検索キーワードでの流入があるのですが、そうした方法は定められていません。
ある訴訟の事件番号を判例雑誌からみつけたが、それで閲覧できるか
記録が現在保管されている裁判所を特定して、閲覧することができます。
控訴・上告によって上級の裁判所に記録が行っている期間はそちらの裁判所で閲覧できます。上級審で判決が確定したり和解で終わった場合には第一審の裁判所(地裁・家裁または簡裁)に訴訟記録が戻ってきますから、その裁判所で閲覧することになります。
この点、控訴審(高裁)の判決の事件番号だけを知っていて判決確定後に地裁で記録の閲覧ができるかどうかは試したことがありません。
判決言い渡しの日と裁判所だけ知っているが、それで閲覧できるか
工夫すれば可能です。
まず、その判決言い渡し日と裁判所のデータを使って有料の判例検索サービスで目的の裁判例を検索します。
そこで出てくる検索結果には、事件番号が記載されています。
あとは前項の要領で、事件記録を保管している裁判所にたどり着き、閲覧ができます。
その『有料の判例検索サービス』というのはなんのことか
弁護士などの実務家向けに月額制の料金で提供されている、キーワードで裁判例を検索できるサービスのことです。
といっても、収録されているのは訴訟で『判決が出た』もののうち、『判例雑誌などで取り上げられた』訴訟に関するものが中心で、世のすべての訴訟をカバーしているわけではありません。むしろ世のほとんどの訴訟は掲載されていないと考えるべきで、裁判所のウェブサイトよりは多い、という程度です。各社のサービスにより、収録されている裁判例の件数に違いがあります。
当事者の氏名や住所は別の字に置き換えられているため当事者名での検索は無理ですが、代理人の氏名が表示されていることがあります。このほか、判決理由のなかで当事者でない企業名や屋号が伏せ字になっていないことがたまにあります。
県立図書館・大都市の市立図書館ではこれらの検索サービスが利用できる端末が解放されていることがあり、無料で使えます。
原告と被告名を正確に知っているが、閲覧申請できるか
これを可能とする裁判所があります。
全国的な扱いかどうかは不明ですが、窓口の向こうの担当者の振る舞いを見ていると、システムとしては検索を経て事件番号を索引することを可能にしてあるようです。
閲覧中の記録を、コピーや写真にとっていいか
訴訟記録のコピーは、当事者でない人はできないのが原則です。
第三者として閲覧する場合、その場で読むしかありません。
当事者として記録を謄写できる場合、コピーではなくデジタルカメラでの撮影が可能です(申請としては、閲覧ではなく謄写になります)。セルフコピー機が使えない大部分の裁判所で、証拠調べをしたあとの調書を迅速に入手したい場合にはこれが最も確実です。撮影の際に音が鳴る携帯電話は使用不可と考えてください(規制はないはずですが、迷惑です)。
利害関係を疎明すれば第三者でも謄写可能とする制度はありますが、その訴訟の結果そのものによほど大きな影響を受ける人でなければ不可能だと考えます。当事者の一方に金を貸しているという程度では無理でしょうが、訴訟で争われている債権に差押命令の申立をした債権者なら可能かもしれません。
他の人と一緒に閲覧できるか
訴訟については、常に可能です。
この場合、同時に閲覧する各人について記録閲覧申請書を書かせる裁判所とそうでない裁判所があります。
閲覧申請書も訴訟記録に綴られるため、前者のタイプの裁判所で記録を閲覧すると誰が閲覧したか全員必ず記録されます。
この点、ある時点での記録閲覧申請者には以前の閲覧者の個人情報がまるごとバレる、という制度に仕上がっており、注意が必要です。
破産・民事再生・強制執行関係の事件記録は原則として当事者と利害関係人しか閲覧できないため、当事者の知人等の立場では閲覧に同行できない可能性があります。
筆者個人の経験では数年前の東西両大規模庁では破産や債権執行の記録を依頼人と一緒に閲覧し、撮影作業を手伝ったりすることができました。逆に名古屋地裁管内の某支部では思いきり断られたこともあります。
裁判所にいけばすぐ記録を閲覧できるのか
東京地裁でなければほぼ大丈夫です。
東京地裁以外の裁判所では、過去の(確定した)訴訟記録も自庁の庁舎内にあるようです。こうした場合は申請すればその日に記録が閲覧できます。
数年前の大阪地裁、現在の名古屋地裁では特に打ち合わせなく過去の確定事件記録を閲覧できましたが、今後もそうであるかは不明です。
何時から何時までに裁判所にいけばいいか
だいたいの裁判所で記録が出てくるまでに30分程度かかり、昼休み中は閲覧できません。
このため、東京地裁を除いて平日の9時〜11時・13時〜16時ぐらいまでに申請をすれば大丈夫です。
閲覧が昼休みをまたがる場合、いったん退出して閲覧を再開できます。
係属中の事件については、裁判所が作業のために記録を使っていることがあります。口頭弁論期日の当日は当然、記録を法廷で使っていて閲覧できません。各回の期日の数日後に、その期日の調書が綴られることが多いため、本人訴訟に備えて記録を閲覧する場合、ある期日の10日後〜次の期日の数日前くらいのあいだに閲覧をかけています。
自分以外の人に閲覧・謄写に行ってもらえるか
できます。委任状が必要です。
記録が謄写できる当事者の場合は、委任状を作れば代理の人に閲覧・謄写してきてもらうことができます。民事訴訟(破産・執行関係等を除く)の記録の謄写の場合、代理人になれる人に制限はありません。
訴訟の記録の閲覧のみであれば第三者もできますので、委任する人も第三者であるならばあえて委任状を作るメリットはありません。
過去の訴訟の記録はいつまで閲覧できるのか
民事訴訟の場合、判決原本は判決確定から50年、和解調書は30年、これ以外の記録(訴状や答弁書や準備書面、書証など)は5年間、保管されることとされています。準備書面や書証の内容に興味がある場合、判決確定・和解成立・取下などで訴訟が終結してから5年以内に閲覧申請をかける必要があります。
訴訟の当事者だが、一部の書類を他人に見られたくない
これを可能とする制度はあります。閲覧等制限の申立てといいます。
しかし、無条件に許可されるものではありません。閲覧等制限の申立ができるのは、訴訟当事者の『私生活上の重大な秘密,当事者が保有する営業秘密等』の記載がある箇所に限られています。訴状丸ごと非公開希望、などというのは無理です。
当事務所では『出版物にする場合は修正を要するような裸の写真』が敵対当事者から無修正で提出された訴訟で、閲覧制限の申立をして通ったものがあります。
前述のとおり、誰かが記録閲覧の申請をかけたことは訴訟記録からわかるので、記録が破棄される期限間際にご自分で閲覧申請をかけ、閲覧がないことを確認できれば安心できるでしょう。
どうしても他人に見られたくない書証をつかったり訴訟を起こしていることを知られたくない意向がとても強い場合、民事調停などもともと非公開の制度を選択することも考えるべきです。
記録閲覧には専用の閲覧室があるのか
東京地裁その他ごく少数の大規模庁を除いて、ありません。
多くの裁判所では書記官たちが仕事をしている一角に机がおいてあり、場合によっては監視カメラがぶら下がっています。ですので同時に閲覧できるとしても2〜3人が限度です。
余談ですが、裁判所事務官や書記官がどんな仕事をしているか見てみたい学生さんには、閲覧室がない裁判所で訴訟記録の閲覧申請をかけると彼らの職場環境にしばらくのあいだ身を置くことができるでしょう。
調停や破産の事件記録は見られないのか
はい。第三者が自由に閲覧することはできません。
民事調停・家事調停(審判)・破産・民事再生・差押など、裁判所が扱う民事・家事関係の申し立てで通常訴訟と少額訴訟でない事件の記録は、当事者でない人は記録を閲覧できないのが原則です。一部の利害関係人は、利害関係を疎明して閲覧できることがあります。
閲覧等ができる場合でも、誰かの代理人として閲覧・謄写ができるのは弁護士か、会社が当事者である場合の従業員に限られるようです。
破産者に対して債権を持っている人は、それが明らかにできる資料(破産者との金銭消費貸借公正証書や相手に対する貸金請求訴訟の勝訴判決など)を提示すれば、破産債権者であることが破産手続申立書類の中から読み取れなくても破産手続の申立書や付属書類が閲覧できます。民事再生でも同様です。
民事再生を申し立てられた会社から給料を振り込まれていた通帳と保険証を示して(労働債権を持つ者であることを示して)民事再生申立書を閲覧できた事例があります。どのような文書を示せば利害関係が疎明できるか、特に私文書で問題になります。
同じ第三債務者に対して競合する申立をした差押債権者は、利害関係人として他の債権差押命令申立事件の記録の閲覧・謄写ができます。この場合の疎明書類は、自分が申立債権者になった債権差押命令となります。
差押命令申立については第三債務者の陳述書(競合する事件の記載がある)、破産・民事再生については官報や破産手続開始決定により、閲覧したい記録がある裁判所と事件番号を把握します。
閲覧した書類のことを公表していいか
興味本位にやるのはやめておくのが賢明です。
前述のとおり、閲覧申請書そのものが記録に残ります。
したがって、暴露された当事者は容易に報復できます。
調査報道としてなされることは当然あるでしょう。これは論じません。
記録閲覧で知ったことをどう使う場合でも、訴訟記録の閲覧をした人が誰かは把握されることを意識しておく必要があります。
他人の秘密を匿名で暴露したい、といった利用には適しませんが、本人訴訟、調査研究、あるいは『勉強』(この理由を書いてある閲覧申請書を、本当に見たことがあります)として閲覧する場合の相談は、当事務所でお受けしています。